多重債務のない社会をめざして
2005~2010年
クレサラ(消費者金融)の高金利引き下げ運動 解説・資料
多重債務問題は社会問題です!
経済苦による自殺は警察庁の統計によると平成16年度は7,947 名。毎日20人以上の人が自殺していることになります。これは日本全国で一年間に交通事故で亡くなる人をオーバーするほどの実態です。交通事故では国家をあげての対策がとられていますが、自殺者の問題についてはなんら対策が講じられてはいません。
◎今や“交通戦争”をも上回る“生活苦による自殺”
現在、多重債務者の予備軍は200万人いるとも予想されています。厳しい取立てから逃れるためにホームレスになったり、金銭トラブルを巡る著しい環境の変化から離婚・一家離散・児童虐待・校内暴力、果ては僅かな返済金欲しさに強盗や凶悪犯罪に発展するケースも少なくありません。もはや多重債務問題は大きな社会問題となっているのです。
◎サラ金利用者は2,000万人を超える
生活破綻を招くサラ金の高金利!
多重債務の大きな原因はクレジット(キャッシング)・サラ金・商工ローン業者等の高金利にあります。
わが国の公定歩合が年0.1%、銀行の貸出平均金利が2%以下という超低金利時代において、出資法の上限金利たる年29.2%は銀行貸出金利の10倍以上の大変な高金利です。この高金利で一旦借入れをしてしまえば、一般の市民(消費者)であれば誰でも家計を圧迫し返済困難に陥ってしまうことは目に見えています。
格差社会が広がる中で、多くの人がパート労働・契約社員等で収入の安定が確保できない環境の下にさらされています。金融広報中央委員会が実施した世論調査によれば、平成17年における貯蓄のない世帯の比率は全体の23.8%を占めており、このことは、生活に余裕資金のない世帯がリストラや病気などの突発的な資金需要に対応できずに29%もの高金利に手を出せば、たちまち生活が立ち行かなくなる現実を窺わせるものです。
借金が生活に与えた影響 (相談者へのアンケート) |
|
---|---|
自殺を考えた | 35%(自殺未遂2.1%) |
ストレスから病気になった | 30.4% |
家族の別居や離婚など家庭崩壊 | 22.6% |
蒸発を考えた | 20.7%(実際に蒸発2.7%) |
職場を辞めた | 12.1% |
自宅を手放した | 11.1% |
子どもが学校を退学、進学を断念 | 1.7% |
など | |
(国民生活センター調査2006年3月) |
地方労福協への相談事例 (相談内容のトップが多重債務問題) |
|
---|---|
○ | サラ金から400万円借りたが返済できず、妻とも離婚。アパートからも追い出しを食らっている(48歳男性) |
○ | 取り立てに追われて逃げている。住所不定で仕事につけず、どうにもならない。(25歳男性) |
○ | 他の店から簡単に貸してくれると次々に紹介され7社から840万円。死にたい。(60歳女性) |
○ | 5社から合計130万。返済できず、会社を辞めざるを得なくなった。(24歳男) |
出資法の上限金利を利息制限法まで引き下げよう!
金利を規制する法律としては、利息の上限違反に刑罰を貸す「出資法」と、民事的効力(有効・無効)の限界をとなる利息を定める利息制限法があります。
しかし、出資法と利息制限法の上限金利の間には差があります。右図のように、民事上無効だが刑事罰の対象にならないあいまいな領域(グレーゾーン)があるために、多くの貸金業者がグレーゾーン内の利率で貸し付けるという実態を生み出し、多重債務発生の原因となっています。
大手サラ金は2%前後で資金を調達し貸付を行っており、25~29.2%で貸せば貸すほど儲かる構造になっています。
出資法の上限利率は2000年に40.004%から29.2%に引き下げられ、2003年7月のヤミ金対策法附則で施行後3年(2007年1月)を目途に見直すことになっています。
これを機に、少なくとも出資法の上限金利を利息制限法の制限金利まで引き下げることが必要です。
金融庁「貸金業制度等に関する懇談会」は、上限金利引下げの方向を打ち出した
「出資法の上限金利については、利息制限法の上限金利水準に向け、引き下げる方向で検討することが望ましいとの意見が委員の大勢であった。」(貸金業制度等に関する懇談会「中間整理」より)
グレーゾーン金利(みなし弁済規程)を撤廃しよう!
◆払わなくてもよい利息をなぜ払わせるのか?
貸金業規制法43条は、債務者が利息制限法の制限利息を超える利息を「任意に」支払った場合に、貸金業者が法定の契約書面及び受領書面を適切に交付していた場合に限り、これを有効な利息の支払いと「みなす」と規定しています。いわゆる「みなし弁済」と呼ばれる規定です。しかし、厳格な条件を満たした場合に認められるとはいえ、この利息制限法の例外を認める「みなし弁済」規定の存在こそ貸金業者の利息制限法に違反する金利での貸付けを助長し、多くの多重債務者を生み出しているのです。
すなわち、利息制限法の制限金利(年15~20%)を超えた利息は民事上は無効で返済義務がないにも関わらず、大手を含む殆ど全ての貸金業者は年25~29%の約定金利で貸付けを行っているのです。そもそも民事上無効であるはずの高金利による営業が許されていること自体が問題であり、このことが多重債務問題の最大の要因であるといっても過言ではありません。
現実には上記の「みなし弁済」を認める条件を満たした営業を行っている貸金業者は皆無に等しく、債務整理や訴訟においては利息制限法に基づいて債務額を確定し、過払金があれば債務者に返還することが実務の常識でさえあります。また、利息制限法は債務者保護をその立法趣旨とする強制法規であり、その例外として暴利を認めるような貸金業規制法43条は、その立法趣旨に反し、また「資金需要者の利益の保護を図る」という貸金業規制法自体の目的規定とも相容れないものといえます。
◆利用者の9割は利息制限法を知らずに無効な利息を払っている。
利息制限法の金利の制限(15~20%)を、90.3%が「知らなかった」と回答
(国民生活センター調査2006年3月)
◆最高裁は、利息制限法を原則として「みなし弁済」を実質否定
最近の最高裁の判例では、この「みなし弁済」は無効とする判決が相次いで示されています。立法府としても重く受け止め、すみやかに法改正を行うべきです。
(1) | 平成16年2月20日第二小法廷判決 「みなし弁済」規定は厳格に解釈適用されなければならない |
(2) | 平成17年7月19日第三小法廷判決 貸金業者は、信義則に基づき取引履歴開示義務を負う |
(3) | 平成17年12月15日第一小法廷判決 契約書面に返済期間・返済金額等の記載がないリボルビング取引について「みなし弁済」規定の適用を否定 |
(4) | 平成18年1月13日判決第二小法廷・1月19日第一小法廷判決 制限超過の約定利息の支払をしなければ期限の利益を喪失する旨の特約の下では支払の任意性がなく、「みなし弁済」規定は適用できない |
(5) | 平成18年1月24日第三小法廷判決 日賦貸金業者において、期間途中での貸し増しにより返済期間が100日未満になっている場合は、「みなし弁済」規定は適用できない。 |
出資法の特例金利を廃止しよう!
出資法附則に定められている日賦貸金業者(日掛け金融)については、その返済手段が多様化している今日において、集金による毎日の返済という形態の必要性が失われていること、また、厳格に要件を守らず違反行為が横行し悪質な取立ての温床にもなっていること等から、その存在意義自体を認める必要性はなく、日賦貸金業者に認められている年54.75%という特例金利は直ちに廃止すべきです。
また、電話加入権が財産的価値を失くしつつある今日、電話担保金融の特例金利を認める社会的・経済的需要は極めて低く、この年54.75%という特例金利も直ちに廃止すべきです。
過剰貸付・強引な取り立て・広告等への規制強化を!
◆ヤミ金等の厳格な取締り
「金利を引き下げれば、ヤミ金がはびこる」との理由で金利引き下げ反対論がありますが、本末転倒です。ヤミ金等の違法行為が放置されていることが問題であり、厳格な取締り体制を強化すべきです。
◆過剰貸付や強引な取立て等への実効的な規制強化を!
アイフルへの全店業務停止命令などにより、貸金業者の違法行為、過剰貸付や強引な取立てなどの実態が明らかになっています。これは一業者の問題ではなく、下図の国民生活センター調査にみられるように、一般的に行われていることです。
借り手の返済能力を超える過剰融資や、契約・取り立てに関する行為規制など、罰則を含む実効的な規制を強化すべきです。
消費者金融の勧誘方法 (国民生活センター調査 2006年3月) |
||
---|---|---|
○ | 貸付可能金額の増額を提案された | 61.7% |
○ | 必要な金額以上の借り入れを進められた | 38.6% |
○ | 電話で追加の加入を勧められ、店舗にいかないまま振り込まれた | 21.4% |
○ | 一括返済しようとした際、また借りるように言われた | 14.5% |
◆サラ金CMの規制を
クレ・サラ問題は個人の責任だと言う人もいます。確かに無計画で安易にお金をかりることは反省すべきです。しかし、大手のサラ金業者は毎日のように爽やかなイメージのコマーシャルを大量に流しつづけています。サラ金から初めて借入れをする人の動機も「テレビCM」をみてというのが圧倒的です。お茶の間に日常的に流れる明るく気軽なイメージを小さな子供にまで与えつづけているのです。
しかし、大手のサラ金であっても高利貸しには違いはないのです。利息制限法の制限金利を守らない貸金業者のテレビCM等への規制を強化すべきです。
◆第三者の保証人制度も見直しを
商工ローンでは、最初から本人に返済能力がないことを見越して保証人から取り立てる目論見で貸し付けるケースが多く見られます。その犠牲になるのは、義理などで断りきれないサラリーマンです。他人の借金のために、人生を棒に振るのでは、やりきれません。第三者の保証人制度についても、業態法のなかで見直しを行うべきです。
多重債務者の相談体制の強化、消費者教育の充実を!
◆相談窓口の拡充と普及
「暮らしのなんでも相談」を行っている地方労福協では、その相談内容の多くが多重債務の関係です。相談してくる人たちの多くが、「何をどこに相談したらよいのかわからない」といいます。
債務整理の相談窓口は弁護士会、法律扶助協会、司法書士会、被害者の会などがありますが、相談窓口に関する情報がを知らないために、自転車操業を繰り返したり、夜逃げや自殺に追い込まれています。
また、これらの相談窓口も、150万~200万と言われる多重債務者に対処するには決して十分ではありません。今後、国や自治体においても相談窓口の開設や情報提供など、相談体制を拡充していくことが求められています。
◆賢い消費者になるために
多重債務問題を未然に防ぐためには、一人一人が賢い消費者となって、正しい情報を身につけ、様々なトラブルから身を守り適切に対応していける判断力を養うことが必要です。
学生、若者、勤労者、年金生活者・・・・それぞれのライフステージに合わせたキメ細かな消費者教育が必要になってきます。
◆青少年への消費者教育の充実
消費者金融の利用者の4割は20代の若者です。洪水のようなテレビCMの影響で、多くの若者が消費者金融に好印象を抱いているのが現状です。
しかし、金やモノが簡単に手に入るというカード社会の表層だけが宣伝され、支払い不能に陥ったり、多くの犯罪事件を招いている現実はきちんと伝えられていません。悪徳商法、ヤミ金融、そして多重債務問題と消費社会のリアルな構造を、法律や消費者の権利、手続きにまで踏み込んで若者達に教える必要があります。
特に、これから社会に飛び出す高校生や大学生を対象にした消費者教育は極めて重要です。
現在のところ学校教育ではほとんど行われていないのが実情ですが、下の広島県などの事例のように、外部の専門家を講師として消費者講座を開設する取り組みも始まっています。
国、地方において、こうした取り組みを広げていく施策の充実が必要です。
この他にも、福島、新潟、群馬、静岡、石川、大阪、和歌山、広島、愛媛、徳島、高知、熊本などの全国各地で、消費者講座の取り組みが広がっています。
また、労組組合員を対象としたセミナーに、全国各地の労金が講師派遣等の協力をしています。
青少年に誇りの持てる職場の斡旋を!
◆法や公序良俗に反する貸金業は職安でも厳重チェックを!
消費者金融、いわゆる「サラ金」といわれる貸し金業による高金利と過酷な取立て、過剰融資等が大きな社会問題となっています。現行法規のハザマをついて経済的弱者を食い物にする行為は、許されるものではありません。
もとより、こうした問題は企業の経営姿勢によるものであり、それらの企業で働く労働者といえども、その仕事が誰にでも喜ばれ、誇りの持てる職場であってほしいと願うのは当然のことです。私たちはそうした労働者の希望に応えるためにも、健全な企業の発展と健全な職場作りを支援していく運動を進めていきたいと思います。
こうした趣旨から、求職者、とりわけ青少年等に対する職業紹介にあたっては、それが貸し金業であるときには、下記の項目を精査のうえ斡旋するよう、求めるものです。
1. | 法律違反や公序良俗にもとる営業活動を行っていないか、 |
2. | 多数の債務者と訴訟問題を抱えていないか、 |
3. | 青少年にとって働きやすい環境や健全な労使関係が構築されているか |
◆全国のハローワーク、高校に要請書を送付しています。
中央労福協は、2月27日、厚生労働省に対して、本要望項目の要請を行い、対応した水野知親・職業安定局首席職業指導官からは、「要望の趣旨を十分踏まえて、全国のハローワークでキメ細かく対応していきたい」と前向きな回答がありました。3月1日には同様の趣旨で、都道府県労働局長と全国のハローワーク所長宛にも要請書を送付しています。
6月には、全国の高校に対しても、学生への就職指導・支援にあたって同様に対応するよう要請を行いました。