労働者福祉中央協議会
事務局長 花井 圭子
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本日、参議院本会議において「大学等における修学の支援に関する法律案」が可決・成立した。これに伴い、2020年4月から低所得者世帯を対象に授業料減免と給付型奨学金が拡充される予定であり、貧困の連鎖防止や低所得者支援策という点では一定の前進と言える。しかし、対象者が「真に支援が必要な低所得者世帯」に限定され、将来的な「高等教育の無償化」への道筋も見通せず、中間層と低所得者の分断を強めかねないなど、多くの問題と課題が残されている。
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問題のひとつは、法の目的にある。政府は当初「高等教育無償化」としていたが、国会審議では、消費税増税分を財源とするため「少子化対策」と説明を変えた。しかし、少子化対策であるならば、低所得者に限定する必要はない。第2に、財源となる消費税増税が見送られれば本法の施行も延期となる。進学予定者の期待を裏切ることがないよう、増税の有無にかかわらず来年4月から確実に実施すべきである。第3に、新制度によって、これまで大学等で独自に行われてきた中間層までの授業料減免措置が後退・縮小することがあってはならない。国が予算を確保して必要な対応策をとることは政府の責任である。第4に、大学等の機関要件を新設することにより、学生の選択肢を狭め、大学の自治や学問の自由への介入となる懸念があることである。
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本法では、大学等の高すぎる授業料や、現行奨学金制度の問題への対応が示されていない。現在の授業料の水準は中間層にとっても負担の限界を超えており、国立大学運営費交付金や私学助成の拡充により授業料を引き下げることが必要である。また、奨学金返済が結婚・出産・子育てにまで影響を及ぼしていることから、有利子奨学金の無利子化を加速するとともに、返還猶予期間の延長、延滞金賦課率の引き下げ、保証のあり方など返済困難者の救済制度の改善、負担軽減のための税制措置の検討などを早急に行うことが必要である。
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中央労福協は、この間、給付型奨学金の創設や奨学金制度の改善に取り組んできた。
昨年実施した「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」(有効回収16,588件)では、中間層にも重い教育費負担の実態や、大学等の授業料引き下げ、無償化の範囲の拡大、奨学金返済の負担軽減等への要望が強いことが明らかになった。衆議院文部科学委員会での参考人質疑において、中央労福協は法案に対する考えを述べるとともに、アンケートに寄せられた国民の声を国会に届け、衆参の附帯決議にも私たちの要望や課題認識の多くが反映された。
これを次の運動への足がかりとして、今後とも、誰もが安心して学べる社会や高等教育の漸進的無償化の実現をめざして、加盟団体はもとより、様々な団体や関係者とのネットワークを広げ、残された課題の改善に全力で取り組んでいく。
以上