第3回(163号/3月号)
「もったいないからありがとうへ」フードバンクふじのくにの取組み
「フードバンクふじのくに」は、2014年5月19日に創設されました。静岡におけるフードバンクは、10の団体がコンソーシアム形式でその運営に関わるという組織体となっており、静岡県労福協も連合静岡などと共に理事として運営を支援する立場です。その設立趣意書には、『企業は処分コストの削減ができ、地域の社会貢献につながり、また、環境負荷の軽減といった効果も期待できる。一方で、困窮者は節約できた食費を就職活動等、別のことに使うことができ生活に余裕ができる。また、フードバンク倉庫は食料備蓄庫としての機能も担う。フードバンクを地域の仕組みとして定着させ、食を通じて人の縁を結びお互いが助け合う、困った時はお互い様な社会作りを目指す。フードバンクの設立が、社会の在り方を改めて見直すきっかけとなり、「もったいないをありがとう」に変えることが当たり前の社会になることを望む』と記されています。地域の社会貢献活動を相互扶助という我々の活動を通じて進め社会を変えることを目指す方針です。
但し、道のりは平たんではありませんでした。2009年に県労福協幹事会で「設立検討委員会」の設置を提案し、「貧困問題に取組む必要性」「食問題(食料品の有効活用)は大きな課題」「社会的なセーフティーネット補助活動として衣食住問題は重要」などの観点で進めていくことが確認されました。しかし、調査活動を展開する中においてはその必要性は理解するものの「事務局体制の問題」「食糧管理等の課題未整理」「財政的な根拠づけ不足」「具体的実施内容の論議不充分」などの意見が多く出され設置議論が中断しています。
それから2013年まで空白の期間があることになります。その間静岡においては、前述した衣食住の問題に着目し、「誰もがすぐに助けてと言える社会を目指す」ことを目的としたNPOがフードバンクを始めていました。しかし、一つのNPOでは広域に効果的な支援は難しい状況であり、そのことの実態を捉えていた労福協及び福祉基金協会は、前述した2009年時点の必要性の議論に立ち返り、且つネットワークの拡大策として重視していたNPO支援の取り組みの一環として、改めて「実施検討委員会」を立ち上げ次のことを進めていきます。①地域地区労福協へ(貧困問題、食・環境・福祉・防災への運動として)の取組み説明、②NPOとの連携・業務委託契約締結による事務局体制の確立、③構成団体・運営協力団体の組織化、④賛助会員(個人・法人)の仕組み構築と要請、⑤各種助成金制度の研究や申請活動、⑥各地区労福協における具体的取り組みへの提案(フードドライブの実施、地区総会における米1合持ちより運動など)、⑦食料調達確保への取組み(缶詰メーカー等への要請)、⑧各地区労福協の市町への行政要望への盛り込みなどを展開してきました。つまり、2009年の中断時点の課題を、地域・地区労福協という組織形態の活動に落とし込むことを前提として議論を進めることにより徐々に解決し、実現に至っています。
設立当初のフードバンク事務所前にて
2018年度には、食糧入庫69トン、創設以来では総入庫が244トンの実績となっています。まだまだ財政面や運営体制などの問題を抱えているフードバンクですが、ここまで展開できた大きな背景としては、①組織形態が様々な団体が関わるコンソーシアム形態であること、②県労福協・連合静岡・地域地区労福協のつながりが強いこと、③行政や社会福祉協議会等との連携が図れていること、④労組組合員だけでなくすべての人が関われる活動であることなどであったと思っています。
労福協まつりにおけるフードドライブ
今年3月末に「フードバンクふじのくに」は、静岡県の施設である静岡県総合福祉会館「シズウエル」に事務所を移転しました。事務所の移転を契機に、ますます関係各団体や行政とのネットワークを強め、相互扶助の活動がより充実することを期待しています。
県総合福祉会館内の新事務所開所式
「フードバンクふじのくに」は、新型コロナウィルス感染症の影響で生活が苦しくなった困窮者への支援として、赤い羽根共同募金会から1,000万円の助成金を受けて「フードバンク応援事業」を展開し、食品寄付の協力を広く呼びかけ、6月以降の2カ月で1,012件約1万1,822キロ(2020年8月22日時点)の食品を提供しています。
大滝 正 さん
一般社団法人 静岡県労働者福祉協議会 前専務理事
静岡県清水市(現静岡市)生まれ。静岡県労金の役職員を経て、2016年6月から3年間、静岡県労福協専務理事に就任。2017年6月からは、福祉基金協会専務理事も兼務。労金在籍時から労福協活動に関わる。役員就任時には、フードバンクふじのくに副理事長や県ボランティア協会理事などを歴任。福祉の活動を会員と共に進めると共に、地域における福祉関係の団体との連携を重視してきた。
現在は、フリーな立場でホームレス支援のビッグイシューの活動をボランティアとして進めている。