連載

第4回

労福協は物を作るところでも売るところでもない。人をつくり、育てるところ。

● 現在147名の職員体制と伺いました。事業や人員が拡大する中、組織運営や人材の育成にどう向き合いましたか?

 三つの指標がありました。まず、ここで働くことで成長できる、職場が発展するという成長予感。次に理念・ビジョンの共有。そして給与と福利厚生の充実です。
ただ、当初は給与を上げれば人材が集まり、良い組織になると考え、労働条件を整えることに傾注していました。しかし、急激な人員増の中、もっぱら労働条件を求める一部の皆さんの不平・不満が広がるような雰囲気に陥ってしまいました。
 経営者として深く悩み、心ある職員たちと語り合い、本当に良い職場、働きやすい・働き続けたい職場、働き甲斐のある人間らしい仕事について、職員と一緒に探求する「ディーセントワーク研究会」を発足させました。
 その中で、正規職員登用制度、職員のキャリアプラン、社会に貢献する人材の育成を考えてきました。行政の委託事業は単年度ごとです。職員も有期雇用の不安を持っている中、それぞれのキャリアプラン、正規職員への登用を含めて検討しました。職員一人ひとりが将来を見据えた働き方を考え、組織として様々な選択肢を整えることで落ち着いてきました。
 自公政権に交代した際には、予算成立が遅れ、2013年度の各事業が4月に開始できない深刻な状況に直面しました。数ヶ月の失業状態、職員の雇用継続ができなくなった受託事業者もいました。委託費のない本当に苦しい中、我々はあらゆる手段を講じて、「雇用は守る」「相談者を見捨てない」を実践しました。その思いが皆に伝わり、困難な状況でも力を合わせて乗り越えていく、団結の精神が醸成されたように思います。

エピソード⑥

フードバンク、子育て支援、介護リサーチ、生活支援のNPО法人設立支援

フードバンクへの皆さん

 社会に必要とされながらも行政でも民間でもできない分野を支える労福協の精神は、NPОとも親和性があります。労福協は法人設立当初からNPО支援に積極的に取り組んできました。そのようなことからNPОに関わっている求職者を優先的に採用し、NPО設立を目指す職員には、関係する事業に携わってもらいながらノウハウを積み重ねてもらえる環境整備を図ってきました。具体的には、事務所提供や活動に対する支援、行政委託事業の協業などで実績を積み上げる。それらの活動や実績で安定的に運営できる状況になるまでは職員として働きながら事業を運営できる。安定的に自立できる状況になった後に退職し独自の活動を展開しているNPО法人が3団体あります。
 一方、設立者の強い思いで社会的に意義ある活動していたフードバンク沖縄は、実績を積みながらも、社会的認知も活動できる人数も限られ厳しい運営でした。労福協の支援申し入れにより事務所、PC、コピー機の要望があり事務所の一室を提供しました。また、労福協のノウハウで行政への支援制度を活用して自動車の購入と併せ、高速印刷機の共同購入などで体制整備を図ってきました。さらに助成金の確保や行政事業の協業などで実績を積み、その間にNPОの法人格を取得することが出来、事業実績も積み重ねています。現在は自立し活動していますが、お互いに必要とされる協力関係を持ちながら事業連携を進めています。

エピソード⑦

毎年2,000万円の安定資金の確保

 沖縄の労福協は全国で最も少ない会費で運営しています。事業で収益を確保しながら、さらに、社会貢献のための事業を展開するには安定的な財源確保が求められます。そこで、県の外郭団体で公労使の合意で設立した「公財」保健、医療、福祉事業団から年間2,000万円の支援獲得をめざし、定款の趣旨、県の公文書や県議会決議や歴史的経過などを網羅した企画書を持ちこみました。
 難しい案件にもかかわらず事務局は理解を示してくれましたが、理事会、評議員会に提案するにはハードルが高すぎるので貴方で理事、監事、評議員の全員(約30名)の了解を取り付けてもらえたら可能であるとの回答でした。
 それから2ヶ月間、理事、監事など一人一人に合わせ日程調整し、夜討ち朝駆けで要請を重ねてきました。しかし、医師会副会長からは面談する事さえ拒まれ、何とか3か月経過後に午後10時過ぎから会うことが出来ました。しかし医師会の持論で、以前に労働界が当財団に送った役員たちの運営により15億円~20億円も損失を被ってきた経過を指摘し、労働団体には支援を受ける権利はないと拒否されました。
 要請は長く重苦しい雰囲気ではありましたが、歴史を踏まえ相手の主張や気持ちを尊重しつつ、丁寧に労福協の担っている困難者への支援の内容を伝え。職員一人一人が少ない給料からのカンパやフリマ等で、一生懸命頑張っている姿を思い浮かべながら実情を伝える中で気持ちも和らいできました。
 最終的に個人としては理解できるが組織代表として賛成することは難しい、ただし理事会に提案されれば反対はしないと確約をしてくれました。この年間2,000万円が現在の社会貢献事業を支える安定財源になっています。

玉城 勉

公益財団法人 沖縄県労働者福祉基金協会 前専務理事

1955年沖縄県生まれ。沖縄県職員労働組合委員長を経て、2002年に連合沖縄政策事務局長(副事務局長)。2002~2004年、任意団体の沖縄県労福協事務局長(非常勤)。2011年11月~2017年6月まで専任の専務理事。その間、数々のNPO設立や支援等に取り組む一方、内閣府パーソナルサポート検討委員会構成員として生活困窮者自立支援法の制度設計にも携わる。

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