政策・制度
政策・制度 2022年度政策制度要請
- SDGs(持続可能な開発目標)の達成と協同組合の促進・支援
- 大規模災害等の被災者支援と復興・再生および防災・減災対策の強化
- 格差の是正、貧困のない社会に向けたセーフティネットの強化
- 消費者政策の充実強化
- ディーセント・ワークの確立
- 中小企業勤労者の福祉格差の是正
- 勤労者の生活設計・保障への支援
- 安心・信頼できる社会保障の構築
- くらしの安全・安心の確保
Ⅰ.総論
私たち労働者福祉中央協議会(中央労福協)は「すべての働く人の幸せと豊かさをめざして、連帯・協同で安心・共生の福祉社会をつくります」を理念に掲げ、加盟団体や幅広いネットワークによる連携・協働で、各般の課題に取り組んでいる。
2020年1月に日本で最初の新型コロナウイルス感染症の症例が確認されてから2年以上が経過した今もなお、新型コロナ変異株の急速な拡大によって先行き不透明な状況が続いている。
この長期にわたるコロナ禍は休業・休職や失業を余儀なくされ、不安定で低賃金の労働者の減収、住まいの喪失、新卒者の内定取り消し、中小零細事業者の経営への打撃など、市民生活に甚大な影響を及ぼし、貧困と格差の拡大や日本社会のセーフティネットの脆弱さを浮き彫りにした。
2020年度政策制度要求の取り組みではこうした喫緊の課題に対応し、通常要請とは別に、コロナ禍によって困難を抱えた人たちへの緊急的な施策・支援を政府・関係省庁に求める緊急要請を実施した。また、2021年度はコロナ危機の長期化を見据え、2020年度に実施した緊急要請の要求項目の実施状況を点検しながら不十分な点を通常要請に盛り込み、さらなる改善・拡充を求めた。
貧困と格差の拡大や分断、情報リテラシーの格差による制度享受の不平等は、コロナ禍によって顕在化したが、これはコロナ禍の以前から生じていた問題であり、本来であればもっと早く手をつけておくべき課題であった。
日本社会の活力を低下させないためにも、困難を抱えた人たちへの支援は社会全体で支えていくべきである。コロナ禍で講じられた特例措置がポストコロナ社会においても永続的・恒常的な制度としていくための検証を行いつつ、現行の公的セーフティネットの改善を求めていくとともに、必要な人に必要な支援が届く社会への変革が求められる。
2022年度政策提言では、その土台となる包摂的な社会づくりの核として、この2年間の政策提言の要求項目を踏襲するとともに、コロナ対策の時限的・緊急的な措置だけにとどまらず、すべての困窮者・生活者のための根本的な公的セーフティネットの機能強化を求めていく。
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや激甚化する自然災害の猛威、地球規模の気候危機に加え、ロシアによるウクライナへの軍事侵略などの国際紛争によって、世界は経済危機・社会不安に直面している。
こうした状況の中、中央労福協は、引き続き広く各層への理解の進展に努めながら2030年ビジョンで掲げた「貧困や社会的排除がなく、人と人とのつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会」の実現に向け、新しいつながりへアプローチしていくための取り組みを強めていく。
Ⅱ.柱立てと構成
Ⅲ.要求項目
〈最重点要求項目〉
- 1.ポストコロナ社会を見据え、市民生活への支援を総合的に推進するため、引き続き、雇用の維持、就労支援や雇用創出、住まいの保障、学費納入や奨学金返済が困難な人たちへの支援を拡充するとともにコロナ禍で講じられた特例措置が平常時においても必要か否かの検証を行い、必要に応じて継続的な実施や恒常的な制度とする。あわせて様々な困難を抱えた人たちへ寄り添った相談支援や医療・介護従事者や相談員・支援員など支える側への支援を行う。
- 2. 奨学金および学費に関する支援を受けられる人と受けられない人、低所得者層と中間層とで分断が生じないよう、既存の中間層への支援策を前進・拡大させるとともに、経済的な理由で退学を余儀なくされるなど学生が学びの機会を奪われることがないよう、奨学金返済者の負担軽減のための税制支援、大学等の授業料の引き下げ、無利子奨学金の大幅な拡充、返済困難者への支援の拡充をはかる。
- 3.SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて、協同組合や労働組合、労働者福祉に関わる団体などが連携し、地域における貧困・格差・福祉・教育・環境・自然災害などの社会的課題の解決に取り組み持続可能な社会づくりに向けて役割を発揮するために、政府による支援を強化する。
〈重点要求項目〉
1.SDGs(持続可能な開発目標)の達成と協同組合の促進・支援
- (1)政府のSDGs実施方針の優先課題のひとつである「生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」の推進を図るため、化石燃料に依存したエネルギー政策の抜本的な見直しと、「地域循環共生圏」の早期構築に向け、住民一人一人の主体性を基に、これまで協同組合が培ってきた活動を活かし、国、地方が一体となり持続可能な地域づくりを推進する。
- (2)住民主体の持続可能な地域づくりと多様な就労機会の自発的創出の促進を目的とする「労働者協同組合法」が2022年10月1日に施行される。「地方創生」や「地域共生社会」等の国の政策に、労働者協同組合や社会的企業の果たす役割を重視し、コロナ禍で失業や困難にある人々、社会的に排除された人々の就労を通じた社会参加を促進する担い手として、その育成・支援(周知・設立支援、移行支援、税制措置など)を充実させる。また、法の目的に掲げられている「持続可能で活力ある地域社会の実現」に向けて、コミュニティにおける就労と事業化を促進するための政策を推進し、予算措置を講じる。さらに、地方自治体においては庁内を横断する機能を有する協議体などを設置し、多様な就労の機会創出と多様な需要に応じた事業の実施を推進するよう、国から助言や支援を行う。
2.格差の是正、貧困のない社会に向けたセーフティネットの強化
改正生活困窮者自立支援法の施行後5年の見直しにあたり、コロナ禍における支援の検証や地域共生社会に関する施策の進展等も踏まえ、a)支援メニューの拡充と全国展開、b)制度を支える相談支援員の雇用の安定と処遇の改善、c)公的な住宅手当制度(普遍的な家賃補助制度)の創設など実効的な支援のあり方を検討し、必要な法制度の整備・改善を行う。
3.ディーセント・ワークの確立
- (1)社会保障の基盤である良質な雇用の安定と拡大を図る。なかでも偽装請負契約・ギグ労働、フリーランス等の「雇用類似の働き方」の実態を調査し、高齢者を含む全ての就労者を保護する法制を整備する。
- (2)低所得高齢単身女性を生み出している主要な原因の一つである雇用における男女の不平等をなくすため、速やかに法的措置を講じ、体系的・計画的施策を進める。
4.中小企業勤労者の福祉格差の是正
- (1)中小企業勤労者の福祉格差の是正に向けて、国・自治体・事業主の役割・責務等を明確にした法整備を行う。
- (2)従業員の福利厚生に積極的な取り組みを行う事業主、非正規労働者等が福利厚生制度を利用できるよう、財政面の充実をはかる。
5.勤労者の生活設計・保障への支援
- (1)財形貯蓄制度の導入および利用促進に向けて、これまで行った広報活動などを検証し、実効性のある周知広報活動および支援を行う。
- (2)改正高年齢者雇用安定法により70歳までの就業の確保が努力義務となったことを受け非課税財形(年金・住宅)契約時の年齢制限(55歳未満)を撤廃または引き上げる。
- (3)現行の生命保険料控除制度(「一般生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「個人年金保険料控除」)を、国民生活の安定に資するため、また、国民の自助努力支援のため、今後の社会保障制度改定の動向などを踏まえて、制度を拡充する。~所得税法上の所得控除限度額の内訳を各枠5万円とし、控除限度額合計を15万円とする。また地方税法上の所得控除限度額の内訳を各枠3.5万円とする。
6.安心・信頼できる社会保障の構築
- (1)コロナ禍が長期化する中、地域の医療機関では自治体と連携して新型コロナウイルス感染患者の対応を継続しており、第6波を教訓として感染拡大による医療従事者不足が起きないように早急な見直しと医療機関への財政支援を行う。また、新型コロナウイルス感染症対応の要となる保健行政を強化するため、保健師等の増員など保健所の体制・機能を強化し、地域保健衛生施策の拡充をはかる。
- (2)在宅介護サービスを利用する高齢者の感染防止の観点から、在宅介護従事者へのワクチンの追加接種と頻回検査を確実に実施する。
<各論>
1.SDGs(持続可能な開発目標)の達成と協同組合の促進・支援
(1)政府におけるSDGs推進
- ① 政府が行うSDGs実施関連施策においては、本来SDGsの中で最も重要な目標のひとつである「貧困の根絶・格差の是正」を重要項目として位置付け、貧困の削減目標を設定し、着実に取り組む。
- ② SDGs実施指針の改定(2019年12月)において、「新しい公共」の項で、協同組合をはじめとした公共的な活動を担う民間主体による、地域の課題解決に向けた取り組みへの期待が明確に記載された。今後、多様なステークホルダーとの連携が一層進むよう、持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議の構成を見直し、協同組合の代表を加える。
- ③ 政府はSDGsで掲げられている「全ての人の人権が尊重される、誰一人取り残さない社会」のために、外国人・外国にルーツを持つ人々が地域の中で安心して暮らせるよう、人権・労働基本権の保障、交通インフラの整備、保健医療サービスへのアクセスの保障、教育の機会均等など多文化共生社会への転換をはかる。
- ④ 2020年度から本格実施した新学習指導要領において「持続可能な社会の創り手の育成」が明記された。将来を担う若い世代がSDGsの重要性について深く理解し実践につなげるよう、国は具体的なカリキュラムを導入する。
- ⑤ 公的年金保険積立金を適正に管理・運用するため、株式運用投資では、CO2増加により続発する異常気象災害防止の視点からも「責任投資」の署名団体としてさらにこれを推進する。
(2)政府による協同組合支援の強化
人口急減地域特定地域づくり推進法や労働者協同組合法の成立など、持続可能な社会づくりに向けた協同組合の役割発揮への期待は、コロナ禍で「人と人とのつながり」のかたちが大きく変容する中においても引き続き高く、政府による協同組合の支援についてより一層強化する。
- ① 協同組合憲章を定める等、協同組合全体を貫く協同組合政策の基本的な考え方と方針をよりいっそう明確にする。
- ② 2012国際協同組合年の取り組みを踏まえて、「自主・自立」、「民主的運営」を基本に組合員の出資・運営参加により事業を実施する協同組合が社会の中で認知され、持続的に役割を発揮できるよう政府による支援を継続的に行う(政府広報、統一的な統計調査、学校教育における協同組合に関する授業の強化など)。そのため、政府において、協同組合政策に関する調整窓口を設置する。
(3)協同組合の独自性や社会的役割を考慮した税制の適用
非営利の相互扶助組織としての協同組合の社会的・公共的な役割と持続可能な経営基盤の確立の重要性に鑑み、協同組合に配慮した税制を継続する。
(4)生協法の改正
少子高齢化の進展、格差拡大、自然災害の増加など社会の変化に伴う地域の課題に取り組み、持続可能な社会づくりを進める上で、行政や諸団体、市民から生協への役割発揮の期待が高まる中、そうした期待に幅広くこたえることを可能とする法制度面の改善を求める。
(5)持続可能な地域づくりに向けた非営利・協同組織と自治体・行政との協働関係の充実
持続可能な地域づくりのために、自治体・行政と非営利・協同組織との関係を、単なるコスト削減や下請け型の業務委託ではなく、目的や基準(公正労働基準)を明確にした上での対等なパートナーシップにもとづく協働の関係へと再編成する。そのため、地域福祉の向上と住民自治の促進をはかる目的で、指定管理者制度などの公共サービスを支え充実させるための制度・政策を総合的に見直し、充実させる。
特に、指定管理者制度においては①フルコスト・リカバリーの考え方をもとに一般管理費を含む間接経費全体を人たるに値する人件費(公正労働基準)を見込んだ積算とする、②一定額の利益、繰越金(あるいは積立金)を認めて「精算」項目を廃止する、③指定管理料の適正化、④印紙税や消費税の非課税扱いの徹底、⑤会計処理と監査の改善、⑥制度の趣旨に相応しい科目の創設、以上をはかる。
2.大規模災害等の被災者支援と復興・再生および防災・減災対策の強化
(1)大規模災害等の被災者への生活支援
- ① 被災者生活再建支援法の適用範囲について、対象拡大や支援金増額をはかるなどさらなる改善・拡充に向けた検討を行う。
- ② 地域ごとに被災者の生活、住居、就労、医療・介護・福祉等に関するきめ細かな情報提供や総合相談の体制を整備する。
- ③ 子ども・被災者支援法にもとづく「被災者生活支援等施策の推進に関する基本的な方針」に関する各種施策など、原発事故被害者も含む被災者への支援を確実に実施する。
- ④ 汚染水海洋放出の取り扱いについては、被災者感情に寄り添い、地域住民や関係団体の意見を十分に踏まえ、理解を得ながら丁寧に進める。
- ⑤ 二重ローン等の住宅等の既存債務問題について、政府方針を受けたガイドラインによる運用も進められているが、被災者の生活再建を柔軟に支援する観点から、国による一層の施策の周知広報をはかる。
- ⑥ 近年、復興住宅での高齢者の孤独死が増えていることから、入居者の孤立化防止の観点から、相談員による見守り・相談などの寄り添い支援を充実させるためにも、既存コミュニティや自治会、社会福祉協議会やNPO等の支援団体との連携強化をはかり、引きこもり防止に向けた対応を進める。
(2)住民主体による復興・再生の取り組みの制度化
被災地・被災者の「生活」の確保・安定に最大限の努力を費やすとともに、東日本大震災からの復興・再生を住民主体による取り組みと位置づけ、被災地・被災者自身の自主的・自発的な復興・再生の取り組みを支援する制度の創設を検討する。
- ① 復興・再生を従来型の行政主導・行政本位にせず、市民・地域の力を集めた取り組みにするための、組織的・政策的な位置づけを国の方針として明確化する。具体的には、地域の民間組織や非営利組織等も交えた復興・再生のためのネットワーク組織の結成を促進し、官民一体となった取り組みを活発化させ、これを国として支援する。
- ② 東北の被災地・被災者の仕事の確保・創出について、地域の産業創出や従事する就労分野の変更を制度的に支える研修・訓練制度と、公的に就労を保障する制度を組み合わせた、「公的訓練・就労事業制度」(仮称)を新たに創設する。
- ③ 政策・方針など意思決定の場に女性の参画を拡大すること。特に防災・復興に関する方針決定、現場対応について早急に女性参画を進めること。
(3)平時における防災・減災の対策
- ① 災害からのくらし全般の復興支援に向けて、地方自治体が平時から行政・社協・NPO等民間との多様な連携を促進し、非常時に備えた財源づくりを検討するよう、国は助言や支援を行う。
- ②将来起こりうる大規模災害に備え、今後の災害対策に必要な被害想定、燃料確保や物流網の維持確保等の課題に対し、消費者ニーズを反映するため、政府の各種審議会等に、消費者団体等の意見を反映させる。
- ③ 災害時の災害対応拠点となる自治体庁舎・公共施設・医療施設等の耐震化を徹底する。
- ④ 災害時に手助けが必要な高齢者や障がい者、外国人などの迅速な避難が優先されるよう、改正災害対策基本法(2021年5月20日施行)にもとづく「避難情報に関するガイドライン」の実効性を高めるよう、自治体への取り組みを促進し、通信手段の確保や情報提供のあり方など情報発信に関する総合的な取り組みを強化する。
- ⑤ 学校教育における防災教育や避難訓練の充実を図り、避難対策等を徹底する。
- ⑥ 国は地方自治体に対して、避難者間で新型コロナウイルス感染症が拡大しないよう、大規模災害時の避難や避難所における感染症対策の備えを徹底させ、地域住民への周知・広報を徹底させる。
3.格差の是正、貧困のない社会に向けたセーフティネットの強化
子ども、若者、女性、高齢者など、あらゆる層に拡大する格差・貧困の解消をめざす。
(1)教育の機会均等 ~奨学金制度等の拡充・改善と教育費の負担軽減~
幼児教育、初等教育、中等教育、高等教育等すべての子どもに保障し、教育費の無償化を漸進的にめざす。
給付型奨学金制度の創設を契機として、有利子から無利子へ、貸与から給付への流れを加速し、既存の返済者の負担軽減や救済制度の拡充、学費を含む教育費負担の軽減につなげる。
- ① 教育の機会均等の確保、将来を担う人材の育成、親・保護者の経済的負担の軽減をはかるなどの観点から、政府は教育における公財政支出をOECD平均まで引き上げる。
(注)日本の公財政教育支出の対GDP比(OECDインジケータ2021より)
全教育段階 日本3.0% OECD平均4.4%(2018年)
高等教育 日本0.6% OECD平均1.2%(2018年) - ② 大学等修学支援法に伴う制度への対応
「大学等における修学の支援に関する法律」の施行に伴う制度(低所得者に限定した授業料減免と給付型奨学金の拡充)の実施にあたっては、以下の対応を行う。- a)「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」における「高等教育の漸進的無償化」の実現に向け、将来的には授業料無償化の対象者を段階的に広げていくことを展望してロードマップの検討・策定を行う。
- b)コロナ禍により家計が急変した学生等を修学支援制度により多くつなげるため、制度の周知広報を徹底するとともに、必要十分な予算を確保する。
- c)低所得層を対象とする本支援制度の実施により、中間所得層も対象として各大学が行っている既存の授業料減免が縮小・後退していないか、実態を調査し公表する。その結果も踏まえ、国の財政措置を含めて必要な措置を講ずる。
- d)大学等の確認要件の設定・運用にあたっては、学生の選択肢を狭め、大学の自治や学問の自由への不当な介入とならないよう慎重な運用を行う。
- e)新制度において学生等に対する支援の継続を判断するにあたり、相対評価による学業成績が下位4分の1に属することを理由とする場合は、斟酌すべきやむを得ない事情がある場合の特例措置を現行よりも幅広く講じる。
- f)制度の利用状況について詳細なデータを公表するとともに、施行後のニーズの充足状況の調査や運用に伴う問題点の実態把握を行い、施行後4年の見直し時期以前であっても、必要な見直しや改善を行う。
- ③ 大学の授業料の引き上げに歯止めをかけ、高騰した大学等の授業料等の引き下げを可能にする環境を整えるため、国立大学法人運営費交付金や私学助成を拡充する。
- ④ 修学支援制度の対象とならない学生に対して大学等が独自に授業料減免等を行う場合に国がその経費を支援するとともに、奨学金の申請増加にも対応できるよう必要十分な予算を確保しつつ、給付型奨学金と貸与型奨学金の拡充をはかる。
- ⑤ 大学院生に対しても給付型奨学金を導入する。
- ⑥ 貸与奨学金は全面的に無利子とするため、独立行政法人日本学生支援機構法を改正し、一般財源化する。少なくとも、無利子が有利子を上回るよう、貸与基準を緩和し、無利子奨学金を大幅に拡充する。
- ⑦ 返還期限猶予制度について以下の改善を行う。
- a)新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い奨学金の返済が困難な方が漏れなく迅速に返還期限猶予制度が利用できるようにする。そのため、簡易な手続きと柔軟な運用を行うとともに、そうした取り扱いや制度内容について、返還者本人・連帯保証人・保証人の全てに対し個別に周知し利用を促す。
- b)延滞があることによって猶予制度の利用を制限しない。
- c)コロナ禍が収束するまでの間、返還期限の猶予期間は返還期限猶予制度の通算利用可能期間である10年には算入しないという特例措置を再度適用する。
- d)返還猶予期限(通算10年)が切れた人にも猶予期限をさらに延長(10年→15年)するなど、返済困難者への緊急の救済措置を講ずる。将来的には、返済開始から一定期間経過もしくは一定年齢に達した後は残額を免除する制度の導入を検討する。
- e)所得基準(年収300万円以下、給与所得者以外は年間所得200万円以下)を大幅に緩和する。
- ⑧ 延滞金は廃止する。廃止までの間、延滞金賦課率(現行3%)の引き下げを行うとともに、以前の賦課率(2014年3月までの10%、2014年4月~2020年3月までの5%)も引き下げる。また、元本返済が後回しとなる現行の充当順位は「延滞金→利息→元本」から「元本→利息→延滞金」に変更する。支払い能力がないにもかかわらず繰り上げ一括返済を求める運用は直ちに是正する。延滞者には救済支援を優先し、安易な信用情報機関への登録は行わない。
- ⑨ 所得連動返還型奨学金制度については、年収ゼロや非課税世帯であっても月額2,000円を返還させることの見直しなど、返済困難者の実情を踏まえて改善を行うとともに有利子奨学金や既返済者への適用を拡大する。
- ⑩貸与型奨学金における人的保証については、奨学生や保証人の負担が大きいことを踏まえ、当面は機関保証を中心とした制度への移行を進めつつ、保証のあり方についても抜本的な検討を行う。機関保証についても、保証料を引き下げるなど負担軽減策を講じるとともに、返済困難者に寄り添った救済を行う観点から制度や運用を改善する。
また、自宅不動産等の生活手段からの回収を行わないなど、保証人に対して無理な返済を求めないよう適切なガイドラインを作成し、実行する。 - ⑪ 日本学生支援機構が保証人に対して半額の支払い義務しかないことを告げずに全額請求している問題を速やかに是正するとともに、既に半額以上を支払った人たちに対して返還を行う。
- ⑫ 奨学金返済者全体の負担軽減をはかる観点から、奨学金返済金への税制支援(所得控除または税額控除など)を導入する。
- ⑬ 親・保護者の学費等の負担軽減をはかるため、政策減税を講じる。
- ⑭ 入学金・授業料等の入学時一括支払いを求められて対応に困難をきたすことのないよう、入学時の費用についての支援を強化する。
- ⑮ 政府および日本学生支援機構は、奨学金を借りる際の丁寧な制度説明、および返済が困難になった場合の相談方法等の周知徹底に努める。また、スカラシップ・アドバイザー事業については、これまでの実施状況や受講した生徒や親・保護者、教員等の声を踏まえて検証・改善を行うとともに、相談に応じられる体制を構築する。
- ⑯ 給付型奨学金の大幅な拡充や新型コロナウイルス感染症の影響による返済困難者の増加に伴い、日本学生支援機構の業務量や相談の増加が見込まれることから、それに見合った十分な相談体制の拡充、人員や体制の整備をはかる。また、申請書の簡素化をすすめ、申請者および学校の事務負担の軽減を行う。
- ⑰ 文部科学省の奨学金に関わる検討の場や学生支援機構の運営(運営評議会など)への奨学金利用者・保護者や勤労者代表の参画・意見反映を進める。
- ⑱ 返還期限猶予制度等の救済措置の周知を徹底する。学生支援機構の裁量による恣意的な利用制限が行われないよう、法制度や運用の見直しを行う。
- ⑲ 社会人が学び直しのできるリカレント教育の促進や生涯学習推進のための施策の拡充や環境整備を行う。
- ⑳ 2022年度分の学費の軽減を行う大学院、大学、専門学校等に対して、学費の半額を上限として国が費用を負担する。
- ㉑ 大学等における貸与型奨学金の在学採用を通年化する。
(2)地域共生社会の実現に向けて
社会福祉法等改正に伴う重層的支援体制整備事業の推進にあたっては、補助金の一括交付の対象となる生活困窮、高齢、障がい、子どもの各分野についての予算を全体的に拡充するとともに、制度を担う相談員・支援員の雇用の安定、処遇の改善をはかり、一生の仕事として誇りをもってキャリア形成できるような支援・環境整備を行う。
(3)緊急雇用対策
- ① 新型コロナウイルス感染拡大の長期化に伴い、安易な雇止めが行われることのないよう企業等に周知徹底するとともに、政府・自治体による自粛指示・要請に基づく休業に対しては、雇用形態を問わず十分な所得補償を行う。また、離職を余儀なくされた労働者に対しては早期の再就職が可能となるよう手厚い就労支援や雇用創出事業を行う。
- ② 就職氷河期世代支援について、コロナ禍に伴う就職困難も含めた対応策を強化する。
- ③ 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金については、学生アルバイトなどに対して制度の周知を強化する。また、企業等の協力が得られない場合でも、労働者が申請を断念しないよう対応策を検討する。
(4)生活困窮者自立支援制度の拡充・体制整備
- ① 相談員・支援員の雇用の安定と処遇の改善等をはかる。
- a)コロナ禍に対する相談・支援現場が疲弊し「相談崩壊」を招かないよう、人員体制の強化と相談員・支援員の処遇改善をはかり、そのために必要な財政支援を拡充する。あわせて、医療従事者等と同様に、生活困窮者自立支援事業の従事者に感謝とエールを送り「慰労金」を支給する。
- b)相談員・支援員が一生の仕事として誇りをもって安心して働けるよう、賃金水準の大幅な引き上げ、就労契約形態の全国基準化、福利厚生費の支弁、研修の充実をはかる。そのために、国の責任において自治体への指導強化や財政支援を行う。
- c)事業の委託契約にあたっては、事業の安定的運営やサービスの質の向上、利用者との信頼関係に立った継続的な支援、人材の確保やノウハウの継承をはかる観点から、価格競争や単年度実績で評価するのではなく、一定期間事業を委託し支援の質や実績を総合的に判断するよう、厚生労働省と総務省が共同で自治体関係者に通達等を発出し周知徹底する。
- d)委託事業者の管理部門に要する経費が持ち出しとならないよう、生活困窮者自立支援事業の委託費の対象経費の見直しや一般管理費の設定を行う。
- ② 住居確保給付金の予算を大幅に増額し、以下の制度改善・拡充を通じて、公的な住宅手当制度(普遍的な家賃補助制度)の創設につなげる。
- a)住居確保給付金の支給期間を、コロナ禍が収束するまで延長する。また、「人生で一度きり」という原則を見なおし、支援が必要な時には再申請できる制度とする。
- b)2021年1月1日省令改正により10~12ヶ月目の受給者に対する求職要件の復活や資産要件の厳格化を撤回・緩和し、フリーランス等を含めて利用しやすい制度に改善する。
- c)迅速な支給や給付業務の負担を軽減するため、オンライン申請を可能とし、支給要件を収入要件と資産要件だけに緩和する。
- d)収入要件を公営住宅並みの入居水準に緩和するとともに、支給額については引き上げを行う。
- e)アルバイト収入や仕送りの減収により学業の継続が困難になっている大学生・専門学校生等が支援の対象となるよう、生計維持者の要件を緩和し周知を徹底する。
- f)求職者支援法に基づく職業訓練受講給付金との併給を特例としてではなく恒常的に認める。
- g)住居確保給付金の支給対象に入居一時費用も含める。
- ③ 生活福祉資金貸付制度の特例貸付について、住民税非課税世帯以外でも償還が困難な場合は柔軟に償還免除を行うとともに、継続的な支援を行う生活困窮者自立支援事業を含めた支援体制を強化する。また、今回の特例貸付の対応の検証を踏まえて、今後の危機における支援策として貸付というスキームが適切なのか、自立相談支援事業や家計改善支援事業等との連携の在り方について見直しを行う。
- ④ 全国どこでも必要なサービスが受けられるよう、就労準備支援事業、家計改善支援事業については、速やかにすべての自治体での完全実施を達成し、次期法改正において必須化する。また、一時生活支援事業、子どもの学習支援・生活支援事業は補助率を引き上げて努力義務化し、次々回改正での必須化をめざし、各事業の実施率の向上や小規模自治体での広域実施の促進をはかる。
- ⑤ 生活保護行政と生活困窮者自立支援制度との密接な連携のもと、一体的で切れ目ない支援を行う。また、関係機関間での情報共有や連携を促進し支援につなげていくため、支援会議の設置促進、機能強化をはかる。
- ⑥ 2023年度の予算編成にあたっては、生活保護費等の削減によることなく、生活困窮者自立支援制度をさらに強化していくための十分な予算を確保する。
- ⑦ 支援をより効果的に行うため、就労支援期間中の生活支援給付や交通費等の実費支給、学習支援や一時生活支援における食費等の経費への補助を行う。また、所持金のない相談者への緊急支援のための小口貸付・小口給付の制度化を検討する。
- ⑧ 一時生活支援事業において公営住宅やセーフティネット住宅・空き家の活用を進めるとともに、制度の対象者をホームレスから居住支援対象者に明確に位置づけ、「居住支援事業」に再編・拡充する。
- ⑨ 就労準備支援事業や就労訓練事業などを地域で支える受け皿となる企業・団体へのインセンティブ(優先発注の促進、特定求職者雇用開発助成金の活用など助成の拡充に向けた制度改善)を確保するための施策の実効化・拡充をはかる。
- ⑩ 引きこもりを対象とした貧困ビジネス「引き出し屋」による被害の実態調査を行い、消費者への注意喚起、相談体制の整備、悪質な業者の摘発等を行うとともに、被害発生防止のための法規制や被害回復のための民事ルールの整備等を検討する。あわせて、支援を必要とする人が適切な公的支援につながるよう、生活困窮者自立支援事業や引きこもり支援センター等の周知やアウトリーチを強化する。
- ⑪ 「生活困窮者自立支援制度」等社会的困難にある人々に対する自立・就労支援における社会的事業者の活用と雇用・就労創出策の充実
- a)「生活困窮者自立支援制度」等で実施される「就労準備支援事業」「就労訓練事業(中間的就労)」等において、「社会的企業」や労働者協同組合を積極的に位置づけ活用し、地域における雇用・就労創出や社会的居場所の推進と連動させる政策を推進する。特に「就労訓練事業」においては、事業所認定の推進をはかるとともに、地方自治体による優先発注など公共調達の充実をはかるために特段の支援策を講じる。
- b)就労困難な若者や女性、高齢者、障がい者など社会的困難にある人々を対象に、地域における就労創出による社会参加と居場所づくりを目的に、労働者協同組合づくりを含めた社会的訓練などの公的職業訓練と公的に就労を保障する制度を組み合わせた「公的訓練・就労事業制度」(仮称)を新たに創設する。
- c)2020年度より実施された「就職氷河期世代活躍支援プラン」のさらなる拡大・充実と「中高年引きこもり(8050)問題の当事者」と称される就労困難な世代に対する特段の就労支援策を講ずる。現在、都道府県・指定都市に設置されているひきこもり地域支援センターを市町村にまで拡充させる。都道府県レベルのプラットフォームに若者就労支援団体の位置づけを行う。また、「求職者支援訓練」においても、「生活困窮者自立支援制度」や「就職氷河期世代活躍支援プラン」との積極的な連携をはかるとともに、制度の抜本的見直し(※1)を行い、公的職業訓練の一層の充実と制度の弾力的運用(※2)、訓練メニューの創造的開発などをはかる。
- ※1 ①求職を一律の目的としない、仕事おこしや分野別の縦割りを超えたカリキュラムの設計と弾力的運用、②就労に困難を抱える若者や高齢者、障がい者などに受講の枠を広げるためにも雇用保険財源から一般財源への移行等
- ※2 公共的社会サービスを担う地域の非営利組織、協同組合、中小企業等のコミュニティ事業者が実施主体となることが可能となる等
(5)人間の尊厳が保障され、利用しやすい生活保護制度への改善
- ① 2023年度に予定されている生活保護基準の改定にあたっては、この間の引下げに伴う生活保護利用者の家計の実態や国民生活への影響について、実態把握・調査・検証結果を反映し、以前の水準以上に引き上げ、健康で文化的な生活水準を確実に確保できる基準を確保する。また、級地制度を見直す場合は引き下げとなる地域が生じないよう留意する。
- ② 生活保護基準の決定のあり方について、厚生労働大臣の告示のみで決定できる現行の仕組みを見直し、生活保護基準部会への諮問、答申の尊重義務や当事者の参画をはかるなどの改善を行う。
- ③ 社会保障の脆弱さが生活保護制度に過度に負荷をかけている制度全般のあり方を見直すとともに、人としての尊厳や生存権を保障する観点から生活保護法を見直し「生活保障法」への改正を検討する。
- ④ 生活保護世帯の子どもの大学等への進学支援については、貧困の連鎖を解消し教育の機会均等を確保する観点から、進学準備のための一時金の給付に加え、「世帯分離」の取り扱いの見直しを含め、引き続き検討を行う。
- ⑤ 生活保護受給者の医療機関受診に際しての窓口負担については、最低生活費を割り込む恐れや受診抑制が懸念されることから、償還払いの試行・導入は行わない。また、生活保護利用者以外の生活困窮者に対しても、医療アクセスを保障する観点から医療扶助を適用する。
- ⑥ 生活保護制度の申請は国民の権利であることを広く市民に知らせ、申請書やパンフレットを福祉事務所や行政の各相談窓口に設置する。またコロナ禍においては、申請書等をウェブに掲載しオンライン申請に対応するなど運用の緩和を行う。
- ⑦ 生活保護法の運用にあたっては、生活資金が逼迫している場合は速やかに保護を開始するとともに、生活保護の申請抑制や扶養義務の強化を招くことがないよう、現場に徹底する。また、コロナ禍においては、迅速な保護決定のため、資産調査を簡略化(自己申告を前提に、事後に虚偽が判明した場合は返還請求を行う)する。
- ⑧ 生活保護の利用にあたって行われる扶養照会については、扶養照会を拒否する要保護者の意向を尊重した対応を徹底するよう、国は地方自治体に指導する。また、要保護者が生活保護の利用をためらう一因となっていることに鑑み、扶養照会を撤廃する。
- ⑨ 住居のない要保護者について、無料低額宿泊所等の集団処遇施設に入居することを条件とする運用を改め、居宅保護を原則するとともに、居宅保護までの一時生活支援においても個室提供を原則とする。
- ⑩ 申請等に関する苦情や相談、不服申し立て(審査請求)を受付け、調査権と行政への勧告権を持つ「第三者機関」を設置する。
- ⑪ 生活保護行政の公的責任や業務拡大・高度化等を踏まえ、地方交付税の福祉事務所費の大幅な改善を図り、正規公務員によるケースワーカーを増員するとともに、職員の専門性を高める。また、ケースワーク業務の外部委託は、申請・受給抑制を生じ、生活保護行政の劣化を招く恐れがあることから行わない。
- ⑫ 資産を使い果たさなければ保護しないために自立をかえって困難にしているという観点から、最低生活費3ヶ月分程度までの現金・預貯金は認めるなど資産要件を緩和する。
- ⑬ コロナ禍の長期化に鑑み、生活保護の準用を認める外国人の在留資格について、要件緩和を行う。
(6)子どもの貧困・虐待対策の強化
- ① 「子どもの貧困対策法」の改正、第二期「子供の貧困対策大綱」制定をふまえ、当事者である子どもの視点を大切にし、「将来」だけでなく、「現在」の生活の支援、経済的支援、教育支援に取り組む基本姿勢をいっそう明確化し、以下の観点から根本的な貧困対策を推進する。また、コロナ禍が長期化する中で、子供を取り巻く環境は更に深刻化(貧困の深刻化、いじめの拡大、虐待の増加、子どもの自殺など)している。2023年度創設される「こども家庭庁」と関係省庁が緊密な連携を図り、包括的な支援策を迅速に進める。
- a)市町村活動計画の努力義務化を受けて、具体的な対策実施の徹底
- b)多様な貧困指標と改善目標の設定
- c)教育無償化の中間層への拡大
- d)奨学金制度の改善生活保護世帯の大学進学支援措置の拡充
- e)生活保護世帯の大学進学支援措置の拡充
- f)乳幼児期への支援強化
- g)保護者の就労支援における、所得の増大他、職業生活の安定向上支援策の実施
- ② 子どもの貧困は親・保護者の貧困に起因しており、特にひとり親世帯の約半数の子どもたちが貧困状態にあることから、ひとり親世帯に対して、公的手当や税額控除の拡大など、総合的な対策を実施する。その場合は、離死別・未婚を問わないものとする。
- ③ 児童手当や児童扶養手当など公的手当の支給は、低所得世帯の収入の安定のため、毎月の支給とする。
- ④ 相次ぐ児童の虐待死、児童虐待の増加という現状を踏まえて、児童虐待防止法、児童福祉法が改正され、2020年4月から2023年4月にかけて順次施行される予定である。児童虐待防止法では親権者の体罰禁止が、児童福祉法では児童相談所の体制強化や関係機関の連携強化等、児童相談所の設置促進などが盛り込まれる。児童虐待件数は年々増加しており、改正法の実施が急がれる。施策の早期実施と、地方自治体における実態把握、対策の拡充、関係機関との連携など法施行を待たずに実施する。
(7)フードバンク活動の促進
- ① フードバンクを食品ロスの削減のみならず福祉分野と災害時の食糧支援システムとして積極的に位置づけ、省庁横断的な施策を推進する。生活困窮者支援に関わる行政や様々な民間団体を通じたフードバンク食品の提供や、パントリー設備の整備、食品ロス削減を通じた環境負荷の低減など、福祉・環境政策とも連携した施策を推進する。
- ② 「食品ロスの削減の推進に関する法律案」の施行および「食品ロス削減推進基本方針」(2020年3月31日閣議決定)を踏まえ、フードバンクが継続的・安定的に発展できるよう、フードバンク団体の基盤強化(活動に必要な人件費への補助、事務所・倉庫・配送用車両等のインフラ整備への助成、人材育成など)への国や自治体の支援策を拡充する。
- a)地方公共団体が策定する食品ロス削減推進計画において、地方自治体がフードバンク活動の支援策を盛り込むよう、国からも必要な助言や支援を行う。
- b)コロナ禍に対応した緊急対策事業や地方創生臨時交付金等において、フードバンク団体の基盤強化に柔軟に活用できるようするとともに、更なる拡充と継続的な支援を行う。
- ③ 食品寄附に関する責任を免責する制度を創設するなど、フードバンクへの食品提供を促進するための法整備をはかる。
(8)自死・多重債務対策等
- ① 2021年の自殺者数は2万人を超え、依然として子どもや若者、女性の自殺者数は増加傾向にあり深刻な状況が続いている。自殺対策基本法および自殺総合対策大綱にもとづき、地方自治体や学校、地域の団体が実効性のある自殺対策を行えるよう、国は数値データの把握に加え、自死に至った原因や動機の分析を行い公表する。
- ② 若年層の自死防止へ向けた対策として、国の委託事業等で実施されているSNS相談活動について、自殺対策におけるSNS相談事業ガイドライン等を活用し、相談体制を広げる等の施策を進める。また、若年層からのSOSの出し方だけでなく相談を受け止める側の研修を含めた自殺予防教育の充実をはかる。
- ③ 多重債務者対策本部が貸金業者による脱法行為を厳しく監視できるよう、都道府県・多重債務対策協議会における実態の検証・分析の強化と多重債務者対策本部との関係で有機的な連携をはかる。
- ④ 生活困窮者や多重債務者等の生活支援を目的とする生活再建支援事業(相談貸付事業等)を行う民間非営利組織が活用できる公的信用保証制度等のしくみを検討する。
- ⑤ 多重債務問題の誘発が懸念されるカジノ問題については、IR業者参入をめぐる収賄疑惑を徹底解明するとともに、コロナ禍が長期化する中での「三密」を招くカジノ集客への勧誘で収益を上げようとするビジネスモデルの是非を検証する。その間はカジノ推進を凍結するとともに、カジノ解禁の見直し・廃止について検証する。
- ⑥ 政府の多重債務問題及び消費者向け金融等に関する懇談会でも指摘されているとおり、総量規制の対象外である銀行カードローンに起因する過剰融資や、貸金業法等の適用を逃れSNS個人間融資・後払い現金化・先払い買取現金化等を行うヤミ金融などについて、多重債務防止の観点から啓発活動をはじめ法改正を含めた必要な対応をはかる。
- ⑦ 成人年齢の引き下げにより、18歳、19歳が未成年者取消権を行使できなくなることから、若者が過大な債務を負うことがないよう、学校・家庭等における金融教育の充実や情報発信の強化をはかるとともに、貸金業者に対し総量規制など貸金業法の諸規定を確実に遵守するよう指導を徹底する。
(9)住まいの安心、住宅セーフティネットの拡充
- ① 「居住の権利」を基本的人権と位置づけ、分立する住宅保障の仕組みを統合し、住宅政策(国土交通省)と生活困窮者支援政策(厚生労働省)との連携や一体的な運用をさらに強化する。
- ② 改正住宅セーフティネット法に基づく住宅セーフティネット制度の周知を徹底し、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅の登録や活用を促進するとともに、家賃及び家賃債務保証料の低廉化補助を拡充する。また、同制度を機能させるために、居住支援協議会の設置・実動化や居住支援法人の指定を促進し、それらの活動への支援を強化する。また、日常生活支援付きセーフティネット住宅事業を可能とする仕組みを検討する。
- ③ 一定所得以下の賃貸住宅居住者に対して、支払い家賃額20%(上限は24万円)を各年分の所得税額から控除する「家賃比例税額控除制度」を創設する。
- ④ 生活困窮者を食い物にする「貧困ビジネス」(追い出し屋、脱法ハウスなど)を根絶するための規制を強化する。
- ⑤ 新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急住宅支援として以下を行う。
- a)経済状況が改善するまでの一定期間、家賃滞納者への追い出し行為を行わないよう、公的住宅での家賃減免・猶予制度を積極的に活用するとともに、民間賃貸住宅の家主への損失を補償する制度を新設する。
- b)行政の保有する居住施設や公的住宅(公営・UR・公社)の空き室を活用し、住居喪失者に無償で提供するとともに、NPOや居住支援法人等と連携し、生活・就労支援を行う。また、「セーフティネット住宅」等、民間住宅の空き家・空き室を行政が借り上げて、住居喪失者に無償提供する。
- ⑥ 身寄りのない一人暮らしの高齢者等が増加していることから、公営住宅に入居を希望する際に保証人を求めている地方自治体に対して、保証人確保の規定を廃止するよう指導をさらに強化する。
- ⑦ 高齢者の居住用資産の有効活用により生活の安定・向上をはかるため、リバースモーゲージ制度の普及に向けた支援を講ずる。
(10)その他
- ① 低所得者・経済的弱者のための「福祉灯油」制度の実施・拡充へ向け、実施自治体への財政支援の拡充を含む対策を講じる。
- ② 交通政策基本法の趣旨を踏まえ、高齢者や障がい者の生活に必要な移動手段確保を社会保障の一環に位置付け、鉄道を含む地域公共交通体系を充実・整備する。また、高齢者・障がい者などの移動を円滑にするバリアフリー施策を加速する。
4.消費者政策の充実強化
(1)消費者裁判手続き特例法の国民への周知
2016年10月から施行された消費者裁判手続き特例法だが、制度の周知は十分とは言えない。附則第7条では、法の趣旨および内容について国民への周知をはかるよう努めるものとされており、引き続き国民への制度の周知をはかる。
行政による経済的不利益賦課制度、悪徳事業者による財産の隠匿・散逸防止策について検討を進める。
(2)地方消費者行政の充実・強化
「地方消費者行政強化交付金」の予算や消費者行政担当職員を確実に確保し、ICT(情報通信技術)の活用・デジタル化も想定し、地方自治体と二人三脚で消費者行政の充実・強化をはかる。特に消費生活相談員の育成等の相談員確保・強化のための対策を重点課題とし、引き続き取り組む。
(3)消費者団体の公益的活動に対する支援
消費者庁は、現に公益的な活動を行う。適格消費者団体、特定適格消費者団体に対し、その意義を社会的にも評価し、財政面・情報面の支援を行うこと。
また、消費者庁は、「地方消費者行政強化作戦」にもとづき、適格消費者団体の不在地域で、団体の設立を促進する。
(4)地域での消費者教育の推進に対する支援
「消費者教育の推進に関する基本方針」(2018年3月改訂)を踏まえ、「地方消費者行政強化交付金」も活用して、国は地域での取り組みを支援し、消費者市民社会の形成を進める。特に、2022年4月1日から施行される成年年齢の18歳への引き下げについて、情報の周知を図るとともに、若年層への消費者教育の充実・強化を図る。
(5)その他
- ① 物価の動向を引き続き監視するとともに、電気料金・都市ガス料金の自由化により、すでに自由料金であるLPガス・灯油・ガソリン価格を含めて家庭用エネルギー料金がすべて自由化された状況を踏まえ、消費者の権利を確保するための新たな政策を検討する。電気の小売規制料金に係る経過措置の存続のための指定の見直しは、公平な競争環境の整備や消費者への周知・広報の状況、特に消費者に与える影響を十分に考慮したうえで検討する。
- ② LPガス、石油製品(ガソリン・灯油)については、消費者のくらしに欠かせないものであることを踏まえ、公共料金に準じ、価格の決定過程の透明性、消費者参画の機会および価格の適正性など、様々な観点を踏まえた施策を、税負担のあり方等も含め検討、実施する。
- ③ 一部の消費者による過剰な要求、暴言・暴力等の問題について、公共の利益および消費者・労働者双方の権利を守る観点から、消費者と事業者がともに尊重しあい良好かつ健全なコミュニケーションを促進するよう普及・啓発を進める。
- ④ 公正な取引を担保するため、サプライチェーン全体における労働環境への理解を促す消費者教育や、雇用・労働を含む人や社会に配慮したエシカル消費を促進する。
5.ディーセント・ワークの実現
(1)働き方改革関連法の周知・徹底
- ① 働き方改革関連法の定着に向けて、事業主に対して内容の周知・徹底をはかる。
- ②「高度プロフェショナル制度」が長時間労働を誘発することがないよう、徹底した指導・監督を行う。
- ③ 非正規雇用で働く者の処遇改善をはかるため、「同一労働同一賃金」の適用を徹底するよう指導する。
- ④ 「勤務間インターバル制度」の導入を促進する。
(2)最低賃金の引き上げ、公契約基本法等の制定
- ① 最低賃金は、生存権を確保した上で労働の対価としてふさわしいナショナルミニマム水準への引上げと地域間格差の是正に向け、まずは「誰もが時給1,000円」の到達を早期に達成する。
- ② 公的機関が民間企業などへ委託・発注するすべての事業において、適正な労働条件とサービスの質を確保するため、低価格入札に拘束された発注、不当な人件費や人員の削減、不安定雇用、下請け業者へのしわ寄せを排除する公契約基本法や条例を制定する。
(3)障がい者雇用の促進
障がい者一人ひとりの特徴や場面に応じた合理的配慮の提供や差別禁止の徹底が適切に実施されるよう指導するとともに、中央省庁、都道府県、市町村、及び関連公的機関の雇用率を引き続き調査・公表し、透明性のある運営を行う。
(4)高齢者の就労環境改善
希望する高齢者の就労条件を整備するため、高齢者の体力や健康状態その他の本人を取り巻く状況に合致した職場環境を整備する。加えて高年齢者就業確保措置として業務委託契約など雇用契約以外の契約方式をとる場合であっても、安全および健康への配慮に十全を期す。
(5)職場におけるハラスメントの根絶
職場におけるあらゆるハラスメントを根絶するため、ハラスメント対策関連法にもとづき、事業主の防止措置義務を徹底するとともに、ハラスメント行為そのものを禁止する規定を含めた法整備を行う。
(6)ワーク・ライフ・バランスの推進
- ① 仕事と家庭・子育てが両立を促進するために、特に男性の労働時間短縮など、ワーク・ライフ・バランスの取り組みに加え、テレワーク等の働き方改革を促進する。
- ② 待機児童の解消に向けて、また感染症拡大時等の危機を想定して、保育士の人材確保、処遇改善を早急に進める。保育の質の向上、事故防止等の観点から教育訓練を実施・促進する。
6.中小企業勤労者の福祉格差の是正
(1)福祉格差是正のための法整備
中小企業勤労者の福祉格差の是正に向けて、国・自治体・事業主の役割・責務等の明確化、ワーク・ライフ・バランスの推進、また、政府が進める「働き方改革」が勤労者の生活を「ゆとりと健康で充実したもの」とするため福利厚生の必要性を明確にし、国・自治体等・事業主の責務を明確にした法整備を行うこと。あわせて、従業員の福利厚生に積極的な取り組みを行う事業主、非正規労働者等が福利厚生制度を利用できるよう、財政面の充実をはかること。
(2)福利厚生サービスの充実支援
中小企業勤労者福祉サービスセンターの自立と再生に向けて、広域化を推進するとともに、中小企業の「働き方改革」を福利厚生面から支える総合的福祉センターを展望し、魅力あるサービス内容への抜本改革を進める。
- ① すべての会員がいつでもサービスを気軽に利用できる仕組みを確立する。
- ② 既存の企業内福利厚生と重複せずに、従業員ニーズにあわせてサービス・会費が選択できる会員制度の導入を進める。
- ③ 地域の福祉団体やNPO等とのネットワークにより、個別企業では提供困難な子育て・介護支援、生活福祉相談、生涯生活設計支援、共済・生活保障、自己啓発、健康増進、生きがいづくりなど、ワーク・ライフ・バランスの支援や勤労者の多様なニーズにこたえるサービスを提供する。
(3)サービスセンターへの支援
中小企業勤労者福祉サービスセンターの再編(広域化と改革)を進めるにあたって、都道府県が積極的な役割を果たすよう、国の支援・指導を強化するとともに、裏付けとなる財源確保をはかる。また、地域における勤労者のライフサポート事業の促進やサービスセンターの統合・事務の集中化を支援するための基金の造成など、国庫補助廃止に変わる新たなスキームでの国の支援策を早急に検討・実施する。また、全国レベルでのサービスセンターへの支援体制の構築や共同化推進事業等に対する予算措置を行う。(中小企業勤労者福祉事業対策費、全福センターへの補助)
(4)中退共制度の改善
中小企業退職金共済制度(中退共)への加入促進をはかるとともに、以下の制度改善を行う。
○ 一般の中退共では、「掛金納付期間が1年未満は支給なし(2年未満は掛金納付額を下回る)」となっているが、企業の倒産・廃業の場合には掛金相当額が受給できるよう措置を講ずる。また、特定業種(建設業、清酒製造業、林業)退職金共済制度においては掛金納付期間が2年未満は支給されないことから、一般の中退共と同様に「1年未満」となるよう措置を講ずる。
7.勤労者の生活設計・保障への支援
(1)財形制度の改善
【普及促進に関する項目】
- ① 福利厚生の均等・均衡待遇の確保の観点から、パート・有期契約等で働く勤労者が財形貯蓄制度を利用しやすいように対策を講ずる。
- ② 若年層を中心として「iDeCo」や「つみたてNISA」などの資産形成手段が注目されるなかであっても、給与天引きによる積立である財形貯蓄制度が資産形成の基盤となることを勤労者に積極的にアピールする。
【関係法令改正に関する項目】
- ① 財形年金貯蓄および財形住宅貯蓄の非課税限度額を1,000万円に引き上げる。
- ② 財形住宅貯蓄の増改築(リフォーム等を含む)における適格払出しの要件を緩和し家庭用蓄電池等の設置について対象とする。また、適格払出しの費用要件(75万円超)を撤廃する。
- ③ 非課税財形の介護に係る払出し時の利子等を非課税とし、遡及課税しない扱いとする。
- ④ 新型コロナウイルス感染症などの影響により収入が減少した場合には、非課税財形の払出し時の利子を非課税とする等の措置を講じる。
- ⑤ 60歳以降の勤労者において、財形貯蓄が継続しやすくなるよう企業に措置を講ずるよう対策を促すとともに、一般財形貯蓄資金の解約金について、継続した資産形成が行えるよう策を講ずる。
(2)共済制度に関する税制等の改善
- ① 遺族の生活資金確保のため、死亡共済金の相続税非課税限度額について、現行限度額(「法定相続人数×500万円」)に「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算する。
- ② 消費税等において、控除対象外の仕入税額負担を軽減するための見直しを行う。
- a)課税売上割合を算出する際、共済掛金などの非課税売上に一定の率を乗じるなど、控除対象外の仕入税額負担を軽減するための措置を講じる。
- b)また、完全支配関係にある子会社との取引に係る消費税について一定の割合を控除するなど、消費税負担の軽減をするための措置を講じる。
- ③ 協同組合の性質、歴史的経緯等を勘案し、引き続き、国税・地方税について協同組合税制を堅持する。
- ④ 急速に進む社会・経済情勢の変化の中で、共済活動に課せられた社会的役割を果たすため、勤労者・生活者の自主、自発かつ自律的な活動を阻害することなく、相互扶助や協同・連帯の理念を実現しうる法制度の改善を行う。
8.安心・信頼できる社会保障の構築
(1)社会保障制度の再構築
超少子・高齢、人口減少の急速な進展、単身世帯や単身高齢者世帯の増加、格差・貧困の拡大、社会的孤立者の増加など、経済・社会構造の変化に対応した社会保障制度に再構築するため、政府は国民の参画の下、早急に検討を行い実行する。
(2)失職等に伴う社会保障の充実
- ① 失職者等に対して医療保険の確実な給付を行うとともに、税・社会保険料の減免を広く適用するため、所得基準の弾力的運用や特例措置を講ずる。
- ② 雇用保険の基本手当について、所定給付日数・給付率の引き上げを行う。
(3)子育て支援
子育てにおける親の費用負担の軽減のための施策を講ずる。
- ① 児童手当、児童扶養手当、出産・育児休業給付など、子育て家庭への給付を拡充する。
- ② 妊娠・出産期からの相談や支援につなげられるよう、自治体の相談窓口を地域の中に拡充するとともに、改正育児・介護休業法の4月施行も踏まえて、両親学級などの支援について、男性も参加しやすく出産・育児について共に学べる内容に改善・充実させる。
- ③ 必要な財源を確保したうえで、良質な保育・幼児教育など子ども・子育て支援策を充実する。保育・教育の人材を育成・確保・適正配置し、処遇を改善する。
(4)年金制度の信頼の確保
- ①マクロ経済スライド制度による年金額調整のあり方について、現受給者の年金を守るとともに将来の年金受給世代が貧困に陥らない年金額水準を確保する。
また、基礎年金はマクロ経済スライドの対象外とする。 - ② 年金受給開始年齢にかかる選択幅を拡大する。
- ③ 在職老齢年金は就労による労働参加率向上を促すようあり方を検討する。
- ④公的年金積立金の管理・運用にあたっては、以下の内容を重視する。
- a)公的年金積立金の運用については、専ら被保険者の利益のため運用する。
- b)運用方針の検討・決定については被保険者代表が過半数参加する合議機関でその同意を得て行う。また、合議機関の委員はインサイダーとなる業界構成員を除外するとともに、退任後も一定期間回転ドア型の業界再就職を制限する。
- c)政府が日銀の金融緩和と一体でGPIFに強要した株式投資比率拡大方針を撤回する。
- ⑤ 最低限の生活ができる年金給付制度の検討や納付負担の軽減のための施策を検討する。
- ⑥ 年金制度について、国民的議論ができるよう、情報提供を強化する。特に、若年層への制度の情報提供を強化する。
- ⑦ 短時間労働者の被用者年金保険加入を速やかにかつ抜本的に拡大する。企業規模要件は改正法の実施を繰り上げるとともに速やかに全面廃止する。
- ⑧ 年金・医療をはじめとする被用者保険について適用基準を満たす労働者に洩れなく適用させる。
(5)安心の医療・介護体制の整備
【医療分野】
- ① 医療機関や介護・福祉施設でのクラスター防止のため、医療・介護・福祉施設で働くすべての従事者を対象に、新型コロナウイルスPCR検査等を定期的に公費負担で実施する。
- ② 新型コロナウイルス感染症の長期化が余儀なくされている現状をふまえ、新型コロナウイルス感染症にかかわる助成金や診療報酬の加算を継続する。また、PCR検査・抗原検査の保険点数を、少なくとも人件費を含む検査費用の「もちだし」が解消できる水準まで引き上げること。
- ③ 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う医療機関の従事者不足による診療制限、それによる医療ひっ迫を引き起こさないために自治体との協力の下、国の責任で人材確保のための施策を充実させること。
- ④ 新型コロナワクチン接種に関して必要量の確保とともに、副反応など国民の不安に対する適切な情報提供を行う。
- ⑤ 新型コロナウイルス感染症について、医療・介護現場では「感染」した場合しか労災対象とならない。医療機関・介護事業所を守るため、患者・利用者および職員の感染による濃厚接触者として一定期間自宅待機となった場合にも補償をおこなうこと。
- ⑥ コロナ禍による認知症やフレイル・オーラルフレイルの進行が危惧されることから、受診控え・健診控えをせずに適切に診療・健診を受けるよう、国民に対する啓発を行うこと。
- ⑦ 後期高齢者の医療費の窓口負担を軽減するとともに子ども医療費無料化に関する制度を創設する。
- ⑧ 医療労働者が自己犠牲を払わない働き方を実現する診療報酬改定を行う。
- ⑨ 医療従事者の働き方改革(特に医師の働き方改革)をすすめるため、増員と多職種連携(タスクシフト)が重要となることから、医師をはじめ看護師やリハビリ職員などの医療従事者の確保・育成を強化する。
- ⑩ 総合診療医・家庭医や訪問看護師の育成などの推進による、在宅医療の受け皿を拡充する。
【介護分野】
- ① 要介護の利用者が適切なサービスを受けるために、介護保険給付として継続する。
- ② 地域支援事業(総合事業)では、利用者・地域住民がサービスを受ける権利を保障し、介護予防や自立支援を進める観点から、総合事業の事業費上限を緩和するなど更なる制度見直しを行い、継続性のある事業を実施する。
- ③ 「介護離職ゼロ」を実現する前提として「介護職員離職ゼロ」になるよう、全ての介護従事者の介護報酬を引き上げる。
- ④ 介護保険制度の見直しにあたっては、サービス内容の低下を招くことのないよう、利用者本位の見直しを行う。
- ⑤ 地域において、認知症の方の見守り活動に取り組むNPOや市民団体等に対する支援を拡大する。
- ⑥ 成年後見人制度及び市民後見人制度の拡充と、後見人の確保・育成、制度利用の周知のための支援を行う。
- ⑦ 市町村において、家族介護を行う介護者(ケアラー)が孤立しないよう、経済的な問題や身体的・精神的負担、就労など困り事に寄り添う相談体制の整備と相談員の確保・育成を行うための支援を強化する。
- ⑧ 介護人材の確保は事業所の努力だけでは限界があるため、引き続き都道府県および各保険者が取り組むよう、国は支援する。
- ⑨ 地域包括支援センターの機能を強化し、実施体制を整備するため、保険者ごとに基幹的役割を果たす地域包括支援センターの設置を促進する。また、地域包括支援センターの安定運営に向けて、保険者による財政措置、人材確保や教育研修など施策強化のための支援を行う。
- ⑩ 被介護者の権利保障とともに、家族介護支援事業を含め介護者に対する支援を体系的に整備する。利用者・家族にとって不可欠な要介護1・2に対するサービスを地域支援事業に移行させない。
- ⑪ 深刻な介護職員不足に対応するため、介護職員が安心して働き続けられる環境づくりに向けて、介護職員処遇改善加算および介護職員等特定処遇改善加算を現場の継続的な処遇改善とキャリアアップにつながる賃金制度の構築に結びつけるとともに、すべての介護人材の全産業平均との賃金格差を是正するため、さらなる処遇改善を行う。
- ⑫ 介護支援専門員の処遇の見直しを検討する。
(6)医療・介護分野における人権保障
身元保証人がいない人を医療機関や介護保険施設等が入院・入所を拒否することは、法違反にとどまらず人権問題である。厚生労働省は指導を強化し解決をはかる。一方で、医療機関や施設の利用料未回収問題に対しても政府の責任で改善策を検討する。
9.くらしの安全・安心の確保
(1)食品の安全性確保および表示問題
- ① 食品衛生法や食品表示制度の改正について周知をはかり、事業者・消費者双方に対して、食品の安全確保や食品表示に関する理解度を向上させる。
- ② ゲノム編集技術を利用して得られた食品について届出制度を的確に運用する。消費者の不安を招かないよう丁寧なリスクコミュニケーションを行い、表示や情報提供を開発者や事業者に対して指導する。
- ③ 安心・安全で安定的な食料を確保(食料安全保障の確立)するため国内の食料自給率の向上と生産基盤である地域農業の活性化を図る。国際的自由化が進展する中で、輸出入農畜産物の安全基準の明確化と国民に対する透明性を確保する。
(2)防災や環境に配慮した住宅整備促進等の住宅政策の改善
- ① 特例措置制度等の恒久化と要件緩和
良質で低廉な住宅の安定供給や流通促進、国民の住宅取得支援をはかるため、下記制度の恒久化や軽減措置の導入等を行う。
- a) 住宅ローン控除制度の恒久化ならびに床面積要件の引き下げ
住宅ローンを利用して住宅を取得または増改築等の場合、一定の要件を満たせば住宅借入金等特別控除が適用され、その取得等に係わる住宅ローン等の年末残高から計算した金額が所得税額から控除することができるが、本住宅ローン控除制度は特例措置であり、制度の恒久化をはかる。 - b) 住宅取得支援、良質な住宅供給をはかる措置の恒久化
ア)新築住宅に係わる固定資産税の軽減、イ)居住財産の譲渡に係わる特例、ウ)不動産取得税に係わる特例、エ)認定優良住宅を新築した場合の特例等について特例措置の延長から、措置の恒久化をはかる。
- a) 住宅ローン控除制度の恒久化ならびに床面積要件の引き下げ
- ② 補助金制度の拡充・行政窓口の一元化
全国で頻発・激甚化する自然災害に対して、安全で震災に強い安心住宅や省エネルギー住宅が求められる。一部で義務化の動きもあり、すでに国による補助金制度も導入されているが、さらに、a)高耐震・高耐久住宅、b)省エネ対応住宅、c)耐震・バリアフリー・省エネリフォーム、d)液状化地盤改良工事等への国の補助金制度の拡充をはかる。
また、対応する省庁が国土交通省、環境省など複数存在し補助制度を複雑化しているので、行政窓口の一元化をはかる。 - ③ 自然災害の復旧に際しての施策の充実
甚大な自然災害の復旧に際しては、地域の実情等を十分に勘案した施策をはかる。とりわけ過疎地域等は都市部とは異なり、土地売却が困難である事に鑑み、国・地方自治体による買い上げや公的住宅の新設を行うとともに、生活援助一時金支給等を含めた制度の確立をめざす。当面、当該地域の自治体、地域代表者をメンバーに加えた有識者検討会を政府として設立し、具体的な施策を検討する。 - ④ 悪質リフォーム対策
リフォーム業者は近年様々な分野からの進出もあり、その競争が激化している。中には高齢者等をねらった悪質な事業者も未だに存在している。「住宅リフォーム事業者団体登録制度」の周知や相談窓口の充実など消費者を保護するための対策を徹底する。
また、新築住宅に義務化されている契約不適合責任の適用を一定規模以上(請負金額300万円以上等)のリフォームにも適用する制度の創設をはかる。
(3)環境およびエネルギー政策について
- ① エネルギー政策基本法の改正
現在のエネルギー政策基本法では、「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」の3つを基本視点として定めている。今後は、この3つの視点にもとづく取り組みを推進していくことに加えて、「安全の確保」と「国民の参加」を基本視点に盛り込む。 - ② 中長期的な日本のエネルギー政策を展望し、以下の課題に取り組む。
- a)原子力発電への依存を段階的に低減し、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざす。
- b)省エネルギー(節電)による使用電力量の大幅削減に向けた施策を推進する。あわせて事業者の省エネルギーをさらに進めるための支援制度の充実をはかる。
- c)効果的な省エネルギー技術の開発と普及のための施策を行う。
- d)再生可能エネルギーの導入量増加による系統制約に対しては、合理的な利用と中長期の計画的な系統形成を進め、計画の進捗状況について公開する。また、系統整備費用の負担方式は消費者にとって透明性の高い仕組みとする。
- e)電力・ガスなどエネルギーシステム改革における消費者参画を広げ、消費者・需要家が多様な選択肢から選択できるよう推進していく。
- f)次世代送電網(スマートグリッド)のような革新的技術の構築を積極的に推進していく。
- ③ 食品ロスの削減
消費者・生活者に対して「食べ残しをなくす運動」をさらに啓発していくとともに、都道府県・市町村が策定に努める「食品ロス削減推進計画」の策定と目標設定の明記を徹底させる。また、外食時の食べきりについてはより一層の周知を図るとともに、持ち帰りの普及に向けては、飲食店(事業者)に対してお客(消費者)への食品の安全に関する十分な説明を促進し、消費者がドギーバッグ(外食時に食べきれず残した料理を持ち帰るための容器)を活用するなど自己責任で持ち帰ることができる啓発に取り組む。
(4)経済連携問題への労働者・消費者・市民の意見反映
日-EU経済連携協定の協定第16章「貿易及び持続可能な開発」に基づく「市民社会との共同対話」において、引き続き定期的に労働者・消費者・市民を含めた幅広い関係者との対話、および情報公開を行う。
また、TPPおよびその他経済連携における協定においても、労働者・消費者・市民の労働や生活にも密接に関わる問題であり、同様に意見反映の場を設ける。