基本文書

労福協の理念

すべての働く人の幸せと豊かさをめざして、連帯・協同で安心・共生の福祉社会をつくります

労働者福祉中央協議会は結成以来、すべての働く人たちの幸せと豊かさをめざして、労働者福祉運動を推進してきました。こうした長い歴史や、2009年に掲げた理念や価値観がますます重要性を増していることを踏まえ、2019年11月29日の第64回定期総会にて改めて、この理念を確認しました。中央労福協は、この理念を大切に継承、堅持していきます。

(2019年11月29日 第64回定期総会で決定)

2030年にめざす社会像

私たちは、2030年向けて、以下の社会の実現をめざします。

貧困や社会的排除がなく、人と人とのつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会

労福協の2030年ビジョン

(2019年11月29日 第64回定期総会で決定)

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目  次

はじめに

Ⅰ.労働者福祉運動の広がりと原点の継承

  1. 中央労福協の結成と労働者福祉運動
  2. 中央労福協の原点、創業の精神 ~ 福祉はひとつ

Ⅱ.2020年ビジョンの振り返りと課題

  1. 2020年ビジョン策定の時代背景とめざした社会
  2. 労働運動・労働者福祉運動の課題
  3. 労福協に求められる役割・機能

Ⅲ.時代や社会の変化と10年後を見据えて

  1. 深まる持続可能性の危機と改革の方向性
  2. これからの日本社会の課題への対応

Ⅳ.2030年にめざす社会像とビジョン

  1. 2030年にめざす社会像
  2. 2030年ビジョン

Ⅴ.2030年ビジョンを実現するために

  1. 多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます
  2. 労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、 すべての人のくらしを生涯にわたってサポートします。
  3. 地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う 地域共生社会をつくります。
  4. 労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、 財政基盤を確立します。

労働者福祉の基礎 労働者福祉運動の今日的な意義と役割

  1. 協同組合や労働者福祉事業の今日的意義と役割
  2. 労働運動への期待と課題
  3. 労働運動と労働者福祉事業との関係性
    ~ 「業者とお客さま」の関係から「ともに運動する主体」に
  4. 地域における自主福祉活動の課題

労福協の2030年ビジョン

はじめに

 2019年は労働者福祉中央協議会(略称:中央労福協)結成70周年の節目の年です。中央労福協は結成以来、すべての働く人たちの幸せと豊かさをめざして、労働者福祉運動を推進してきました。とりわけ、この10年間は、2009年に策定した「労福協の理念と2020年ビジョン」にもとづき、「連帯・協同でつくる安心・共生の福祉社会」を掲げ活動を進めてきました。
 こうした歴史や、2009年に掲げた理念や価値観がますます重要性を増していることを踏まえ、第64回定期総会(2019年11月29日)において、「すべての働く人の幸せと豊かさをめざして、連帯・協同で安心・共生の福祉社会をつくります」を「労福協の理念」として改めて確認しました。中央労福協は、この理念を大切に継承し、今後も堅持していきます。
 世界的に格差や貧困が広がり、社会の持続性の危機が高まる一方で、2012年の国際協同組合年以降、市場経済だけでは解決できない諸問題に取り組んできた協同組合への評価が世界的に高まっています。また、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)のもと、2030年までに貧困に終止符を打ち「誰ひとり取り残さない」包摂的で持続可能な社会を実現するために、様々な取り組みが動き出しています。これらは、私たちがめざしてきたものと軌を一にするものであり、こうした方向性に沿って労福協のビジョンもより深化させていくことが必要です。
 このため、これまでの10年の活動の成果と課題や時代状況の変化も踏まえて検証と見直しを行い、2030年を目標年次とし、今後の活動の指針となる新たなビジョンを策定しました。私たちは、このビジョンをもとに、新たな社会を切り拓く次の10年への活動をスタートします。

Ⅰ.労働者福祉運動の広がりと原点の継承

 中央労福協の結成から70年が経過し、労働者福祉運動が取り組む課題も時代とともに変わり、福祉の対象やネットワークも広がりつつあります。一方で、時代が変化しても、原点は今後とも変わらず継承していくことが必要です。

1.中央労福協の結成と労働者福祉運動

(1)労福協の誕生と労働者福祉事業の発展
 中央労福協は1949年8月30日、戦後直後の欠乏する生活物資を確保するため、労働組合と生協が組織の枠を超えて結成した「労務者用物資対策中央連絡協議会」(中央物対協)として出発しました。
 その後の組織再編を経て、社会保障制度の確立などへも活動対象を広げるとともに、労金、労働者共済の設立と組織化に取り組みます。当時の労働者は生活資金の借入先は高利貸しか質屋しかなく、「労働者の労働者による労働者のための銀行」をつくろうという運動から、1953年に労働金庫法が制定され、全国に労金が誕生していくことになりました。また、「もしもの時の保障」として生まれた共済事業は、1955年の新潟大火の際、事業発足直後で財政基盤が整っていないにもかかわらず、労働組合による助け合いで給付金を迅速に支払ったことで労働者共済としての社会的信用が高まり、全国に組織化されていきます。労金、こくみん共済coop <全労済> は、労働運動が自らつくり育てた労働者福祉事業なのです。
 その後も中央労福協は、住宅、信用保証、旅行、会館など多くの労働者福祉事業の組織化を進めてきました。現在は、労働者協同組合、医療福祉生協、中小企業勤労者福祉サービスセンターなども含めたネットワークとして発展しています。
(2)広がる労働者福祉運動
 労働者福祉運動は、その時々によって取り組む課題は変えつつも、働く人たちの福祉(幸せ)の実現に向けて、政策や制度の改善を要求していく取り組みと、労働者自らが関与して福祉をつくりあげていく労働者自主福祉運動(事業)を「車の両輪」として活動してきました。
 このように、労働者福祉の概念は、「労働者のための福祉」(対象)と「労働者による福祉」(主体)の両面を備えたものとして発展してきたのです。時代を経るにつれて、労働者福祉の対象は、組織された労働者から中小未組織労働者、働きたくても働けない仲間たち、地域で様々な課題や悩みを抱えた人たちへと広がっています。福祉の担い手も、協同組合や労働者福祉事業団体のほかにもNPOや社会的企業などの登場で多様化し、様々な団体とのネットワークにより諸課題の解決に取り組むようになってきました。労働者福祉の概念もこれらを包含するかたちで広がっています。

2.中央労福協の原点、創業の精神 ~ 福祉はひとつ

 中央労福協は結成当初から、イデオロギーや考え方の違い、組織の枠を超え、福祉の充実と生活の向上をめざすという一点で連帯し、労働組合と労働者福祉事業団体の力を結集することを明確な指針としてきました。この創業の精神は、現在でも「福祉はひとつ」として継承されており、中央労福協の原点です。
 今日では、福祉の課題も多岐にわたり、その担い手も多様化しています。労福協の取り組む課題も、加盟団体はもとより、外部との様々なネットワークを広げたことが成果につながっています。
 これからも中央労福協は、「福祉はひとつ」という原点を忘れずに、加盟団体の結束を強めるとともに、多様な団体や市民とそれぞれの取り組み課題に応じて「目的と目標、実現したい事柄で連携する」ことを大事にしていきます。

Ⅱ.2020年ビジョンの振り返りと課題

 2020年ビジョンでは、「連帯・協同でつくる安心・共生の福祉社会」をめざすことを掲げるとともに、その社会の実現に向けて、労働者福祉事業や労働運動の課題や、労福協に求められる役割・機能を確認しました。ついては、2030年ビジョンの策定にあたり、これまでの10年の活動を振り返り、これからの課題を明らかにします。

1.2020年ビジョン策定の時代背景とめざした社会

【2020年ビジョンでめざした社会】

お金やGDPでは測れない価値を重視する社会人と人とのつながり・絆が大切にされる、ぬくもりのある社会貧困や社会的排除を許さない社会 環境に優しい持続可能な社会

 2020年ビジョンでは、新自由主義が席捲した時代から30年ぶりの転換点を迎え、「新自由主義の終わりが始まり、わたしたちの手で新しい社会をつくるチャンスが到来した」という時代認識に立ち、上記の社会像を示しました。
 当時は、いきすぎた市場経済が日本社会の隅々にまで入り込み、市場にまかせてはいけない分野にまで浸食し、ワーキングプアの増加やリーマンショックによる派遣切りなど、社会に様々なゆがみを生み出しました。2020年ビジョンでは、市場や国家のみならず、連帯・協同セクターとの協働的なネットワークで問題を解決していく社会を展望しました。
 こうした方向性は正しいものでしたが、世界を席捲した新自由主義はこの10年間に大きく変貌し、グローバル企業など一部の層への富の集積がさらに進み、実体経済とかけ離れた巨額の投機マネーの暴走が続いています。そして、社会の底割れ、貧困の連鎖、少子化、環境問題など、様々な観点から社会の持続性の危機はさらに深まり、日本においては自己責任の風潮が強まっています。
こうした状況の中で、「2020年ビジョン」でめざした社会やビジョンを継承・深化させ、「連帯・協同」をしっかりと社会に根付かせていく運動を強めていくことが必要です。

2.労働運動・労働者福祉運動の課題

 2020年ビジョンでは、安心・共生の福祉社会をつくるには、労働の尊厳が尊重される社会をつくるための労働運動の力と、市場経済の領域を縮小・相対化するための協同組合経済の領域の拡大が不可欠であるとし、労働者福祉事業や労働運動の課題として以下の2点を提起しました。

【2020年ビジョン】

協同事業の社会的価値と力量を高める ~労働組合と労働者福祉事業は「ともに運動する主体」

【成果と課題】
 協同組合はそれぞれの事業の持ち場での役割を発揮するとともに、共助の枠を超えた地域づくりや社会性を持った公益的な活動への取り組みも広がっています。2012年の国際協同組合年を契機に、労働組合と協同組合が連携し、こうした協同組合の価値や役割への理解を広げる取り組みが進められてきていますが、認知度は依然として低く、組合員や国民にさらに浸透させていくことが求められています。
 2020年ビジョンでは、労働組合と労働者福祉事業団体との関係が「業者とお客さま」になっており、もう一度設立時の初心に立ち返り「ともに運動する主体」であるという自覚が求められているとの問題提起を行いました。この間の取り組みにより、両者に課題は認識されつつあり、多くの労働組合で労働者福祉運動の推進が方針化されるなどの成果を挙げています。さらに、組合員にまで浸透させていくには、歴史はもとより今日的な事業の意義(巻末の「労働者福祉の基礎」参照)を共有しながら、継続的な取り組みを強めていかなくてはなりません。また、労働者福祉事業団体の商品・サービスへのニーズの反映などを通じて「みんなで参加する」ことを実感できる関係づくりを進めていくことも必要です。
【2020年ビジョン】

塀の外へと福祉を広げる

【成果と課題】
 2020年ビジョンは、中小企業や未組織、非正規雇用で働く人たちなどへ共助の対象を広げていくことや、高齢者、若者、女性の参加や事業の利用促進を提起しました。共助の拡大については、各団体の取り組みの共有や今後の取り組み課題についての報告書をまとめるなどにより、課題認識は高まりつつありますが、具体的な取り組みの提起には至っていません。
 共助の輪を広げることも、労働組合と労働者福祉団体がともに取り組むべき課題です。地域においては、労働組合と労働者福祉団体が結束し、みんなでお金を出し合って基金を設立し、奨学資金の援助や一人親家庭の支援など、地域での社会的な活動や共助の拡大に役立てている事例もあります。こうした取り組みは、組合員や地域の人たちにもその意義が見えやすく、連帯感を高め共感を呼ぶ運動につながるものであり、さらに広げていくことが期待されます。

3.労福協に求められる役割・機能

【2020年ビジョン】
  • 〇 社会の不条理を許さない社会運動の実践 ~「かすがい」機能を果たす
  • 〇 すべての働く人の拠りどころとして頼りになる存在に(ライフサポート事業の推進) ~ 労働者福祉の総合力発揮のためのコーディネート機能
【成果と課題】
①連携・ネットワークで広がる労福協運動
 この10年間の取り組みで、貸金業法改正、奨学金問題、生活困窮者自立支援、ライフサポート事業など、大きな成果を上げています。特に奨学金制度改善の運動は、労福協加盟団体が総力を挙げて、様々な団体、専門家と連携して取り組んだものです。また、2005年から4団体(連合、中央労福協、労金協会、全労済)で取り組んできたライフサポート事業は、地域住民のくらしの総合相談として、自治体、ハローワーク、医療機関、消費者団体、NPOなどのネットワークを広げ、全国で年間25,000件の相談に対応するまでになっています。
②これからさらに高まる労福協の「つなぐ」役割と「つながる」運動
 貧困や社会的孤立が広がり、社会の持続可能性の危機が高まる中で、様々な団体が連携・協同し、それぞれの得意な分野で力を発揮できるよう、加盟団体間の調整(コーディネーター)や外部団体との「つなぎ役」(かすがい役)としての労福協の役割はますます高まっています。
 これからも労福協は、労働組合と労働者福祉事業団体、協同組合間の連携を高め、労働者福祉の総合力を発揮していくためのコーディネーターとしての役割を担います。また、「社会の不条理」に立ち向かう共感の得られる社会運動を積み重ね、労働運動・消費者運動・市民運動等を「つなぐ」役割を果たします。
各地方労福協が、地域の実情や条件を踏まえて、まずは様々な活動や運動に主体的に「参加」「行動」し「つながる」ところからネットワークづくりに取り組むことも含めて、それぞれの段階に応じて今よりもさらに一歩前に進んでいくことが必要です。
今後はSNS等の情報ツールの活用など新しい手法を活用し、共感を得た人が運動に参加し、さらに共感を広げるという運動の拡大連鎖につながる取り組みをめざします。
③労福協が持つ「よさ・強み」を活かす
 中央労福協は、労働団体と協同組合、労働者福祉事業団体、地方労福協が融合した日本では希な全国組織体です。それも統率型・一体的な組織ではなく、「支え合い、助け合い」を共通の価値観に、ゆるやかな協議体として70年間続いてきました。この組織が持っている「よさ・強み」を十分に活かしていくことも今後の課題です。

Ⅲ.時代や社会の変化と10年後を見据えて

1.深まる持続可能性の危機と改革の方向性

(1)広がる格差と貧困、社会の分断 ~ 富を公正に分かち合う社会へ
①世界的に強まる富の一極集中と排他主義の高まり
 急速なグローバル化の進展に伴い、むきだしの市場原理主義が暴走し、全世界に格差と貧困をもたらし、社会の分断を生みだしています。グローバル企業はタックスヘイブンへの資金移転等による膨大な資金蓄積を進め、世界の富の82%が1%の富裕層に集中している(オックスファム試算)とも言われています。こうした中で、既存政治への不満や排他主義、他者への不寛容が広がり、保護主義も台頭し、国際的な緊張や紛争を招いています。国内外の連帯で所得再分配機能を強化し、富を公正に分かち合う社会にしていくことが必要です。
②労働の規制緩和がもたらした格差・貧困の拡大
 日本でも、中間所得層の解体で二極化が進み、貧困や格差が全世代にわたって広がり、貧困の連鎖も深刻です。1980年代より労働法制の規制緩和が進み、1995年の日経連「新時代の日本的経営」により雇用の不安定化や低賃金化に拍車がかかり、今や非正規雇用で働く人たちは約4割を占めています。一方、正規雇用においては長時間労働が蔓延し、過労死、過労自殺が後を絶たず、職場のハラスメントやメンタルヘルスなどの問題も抱えています。こうした中で、ワークルールづくりや真の「働き方改革」が急がれます。
 わが国で働く外国の人たちも急速に増加しており、ともに働きくらす仲間として生きていくための課題解決と共生社会の構築に向けて取り組む必要があります。
(2)強まる自己責任論 ~「助けて」と言える社会に
 日本でも、異質なものを排除し多様性を否定する動きや、社会の分断・亀裂が広がっています。生活保護受給者など社会的弱者へのバッシングなど、自己責任論が強まり、「助けて」と言えない社会になっています。若年層の死因のトップが自殺というのは、世界でも類をみない深刻な状況です。人間はそもそも助け合わなければ生きていけない存在です。「困った時はお互い様」であり、「助けて」と言える社会にしていかなくてはなりません。
(3)雇用の劣化と教育・住宅費負担の限界 ~ 生活保障の再構築を
 日本では、雇用の安定を前提として子育てや教育・住宅は高い私費負担に依存してきましたが、雇用の劣化に伴いそれも限界に達しています。若者は奨学金返済の負担で将来設計が立てられず、少子化・人口減を加速しかねない事態になっています。 これからは、雇用政策と社会保障・教育・住宅の各政策とを密接に連携させながら生活保障を再構築していく観点から、運動と政策づくりを進めていく必要があります
(4)自然災害の多発と地球温暖化 ~ 自然と共生し、災害に強い社会へ
①自然災害に脆弱な社会システムの改革
 この10年間、東日本大震災、熊本地震をはじめ、風水害を含めた自然災害が多発しています。私たちは、改めて日本は災害列島であることを認識するとともに、災害への支援活動を通じて、支え合い、助け合い、絆を再発見しました。これからも、復旧・復興支援をはじめ、生活を一変させる恐れのある災害に備えて被害を防ぎ減らす取り組みや、災害時の高齢者、障がい者、外国人など災害弱者への対策は重要な社会課題です。
②急がれる地球温暖化対策や循環型社会づくりの推進を
 地球規模の気候変動は、持続可能性の問題や食料需給や水などの資源不足にとどまらず、自然災害の頻発と大規模化、激甚化への影響も指摘されており、地球温暖化対策の推進や循環型社会づくりも喫緊の課題となっています。また、福島原発事故を教訓として、再生可能エネルギーの普及や省エネルギーの推進をはかりつつ、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざしていくことが必要です。
(5)民主主義の危機 ~ 多様性を認め合う文化、参加型民主主義が息づく社会へ
 政治に対する不信や投票率の低下など、民主主義も危機に瀕しています。
 社会が分断され孤立化が進み、持続可能で包摂的な社会への合意形成が困難となっている状況の中で、職場や地域を含め社会のあらゆるレベルで参加型民主主義を広げていくことが必要です。
 「民主主義の学校」とも呼ばれている協同組合や労働組合がそれぞれの特性を活かした役割を果たすことにより、個性や多様性を尊重し、違いを認め合い、活かし合う共存の文化を育んでいくことが重要です。
(6)依然として大きい男女間格差 ~ ジェンダー平等の社会へ
 日本における働く女性は、全体の4割を超えています。その内、雇用者は9割を占めていますが、半数以上が非正規雇用です。男女間、企業規模間、雇用形態別の賃金格差は大きく、管理職に占める女性の割合も低いままです。
 政府に対して、働き続けるための法整備やハラスメント防止、待機児童の解消などを求めるとともに、自らもハラスメントのない職場・社会をめざして取り組んでいくことが必要です。また、あらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%とする目標を掲げて取り組んできていますが、目標達成は困難な状況です。
 世界経済フォーラムは毎年「ジェンダー・ギャップ指数」を公表していますが、日本は世界で110位(2018年)でした。
 SDGsの目標5に「ジェンダー平等」が掲げられているように、ジェンダー平等は喫緊の課題です。そのためにも、あらゆる分野への女性の参画促進が求められています。

2.これからの日本社会の課題への対応

(1)超少子・高齢、人口減少社会への対応
①単身世帯・高齢者世帯が増加
 わが国は今後、人口減少と少子化に加え、長寿化、超高齢化が進みます。いわゆる団塊の世代が2025年に後期高齢者(75歳以上)に、団塊ジュニア世代も2035年に前期高齢者(65歳以上)となります。高齢化に伴い、医療・介護の需要や、認知症高齢者が大幅に増加することが見込まれます。さらに、単身世帯が増加し、独居や夫婦のみの高齢者世帯が増加を続けます。こうした中で、介護離職や老老介護の問題も大きな課題となっています。
②「家族で支える」から「地域・社会で支え合う」へ
 人口構造や世帯の姿の変化に伴い、これまでの「家族で支える」から「地域・社会で支え合う」に発想を転換し、社会保障制度の機能強化をはかるとともに、子どもを生み育てることや、認知症高齢者や要介護者、介護者への支援サービスの充実が求められています。
 一方、「人生100年時代」と言われるように、高齢者が健康を維持し地域の活性化や課題解決に取り組んだり、やりがいを持って働き続けるなど、自らの選択で活き活きとした生涯を送ることができる社会にしていくことが必要です。
(2)持続可能な地域づくり
①社会的孤立の広がり
 経済的な貧困とともに社会的孤立も広がり、家庭や学校、職場、地域に自分の「居場所」がない人たちが増えています。孤立死、「引きこもり」の長期化・高年齢化、8050問題(80代の親が50代の引きこもりの子の生活を支える)など、多くの対応すべき課題もあります。2040年には就職氷河期の世代も高齢化し、その影響は深刻です。不安定雇用のもとで老後の資産形成ができなかった人たちへの支援を早急に行うことが必要です。
 これからは地域間の不均衡も大きくなります。地方では若年層が流出し高齢化と過疎化が同時に進む一方で、大都市圏でも出生数の減少や認知症高齢者の急増が予測されています。地方も都市部も支え手が困難な状況の中で、地域コミュニティ機能の維持や、助け合い、支え合いがより重要性を増してきます。
②人々が「支え合う」共生社会へ
 今日の日本社会は、人々が支え合うこと自体も困難な状況になっています。現役世代は不安定雇用や低賃金化で疲弊し支えきれなくなり、社会保障の抑制や縦割り制度の「間」で制度から排除されてしまう人たちも増大しています。これからは、これまでの「支える」「支えられる」という二分法から脱却し、「支える側」の現役世代を広く支え直し、「支えられる側」の参加機会を広げ社会につなげていく観点から政策や制度を構想していくことが重要です。人々の自発的な支え合いが日々の営みとして成立するよう、行政が公的な責任を果たす一方で、多様な主体が協働して共生社会をつくっていくことが求められています。
(3)急速な技術革新への対応
①技術革新によるくらしや社会への影響
 第4次産業革命の進展に伴い、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、FinTec(IT技術を駆使した金融サービス)など急速に進む技術革新は、私たちのくらしや社会のあり方を変えていきます。それは、多大な経済効果と生活者の利便性向上、社会の課題解決の可能性を拓く一方、従来型職種の代替による雇用の大幅減少や、熟練技術の解体、人間疎外なども指摘されています。また、遺伝子操作をどこまで認めるかなど人間の倫理観が問われる分野や、GAFAをはじめとする企業や行政機関の個人情報の取り扱いの問題もあります。
②技術は人間の幸せや豊かさのために
 こうした技術革新の光と影を見据えて、あくまでも人間の幸せや豊かさのために技術が使われるよう、その道筋を定めていかなければなりません。そして、新技術に対応し得る人材育成をはじめ、他の業種・職種への移動を円滑にするための研修・職業訓練、学び直しの保障、セーフティネットの構築などを進めていく必要があります。あわせて、どんなに技術革新が進んでも、人と人の交わりを通じた温もりや信頼関係づくりの大切さは、これからも変わりません。
(4)協同組合の社会的役割の発揮
①協同組合の特性を活かし発展するための政策の実現
 協同組合はユネスコの無形文化遺産に登録され、SDGs達成の担い手として国連をはじめ世界的に期待が高まっています。一方で、日本では農協改革など、「自治と自立」を原則とする協同組合に対して政府が不当に介入して営利化・株式会社化を促すなど、世界の潮流と逆行する動きがあります。また、アメリカの規制緩和要求などの国際的圧力による共済等への影響も懸念されます。協同組合がその特性を活かし発展できるよう、政策の方向づけが必要です。
②協同組合陣営の連携の強化と総合的な協同組合政策の実現
 日本協同組合連携機構(JCA)が2018年4月に発足し、日本の協同組合陣営の結集・連携強化にとって大きな一歩となりました。これを契機に、協同組合がそれぞれの事業や活動に横串を通す分野横断的な連携を強め、総合的な政策や法整備の実現につなげていくことが重要です。
(5)労働運動・労働者福祉運動の一体的展開への期待
 2019年は、ILO創設100周年、連合結成30年の節目の年です。激変する雇用環境の中で、働く仲間を守りディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)を実現するには、労働運動の力が不可欠です。労福協の様々な取り組みを進めていく上でも、労働組合の組織力は大きな力となっており、労働運動が社会的な影響力を高めていくことが期待されます。また、ILOとICA(国際協同組合同盟)は、ディーセントワークの実現や協同組合の促進にともに取り組むパートナーとして関係を深めています。今後も労働運動と労働者福祉運動は一体のものとして取り組んでいくことが重要です。

Ⅳ.2030年にめざす社会像とビジョン

 労福協の理念や、これまで述べてきた2020年ビジョンの振り返りや時代の変化等を踏まえて、これからの10年を見据えるにあたっては、「経済成長は人間の幸せのためにあり、手段であって目的ではない」ことを改めて認識し、経済・社会・環境の調和やそのための諸課題の解決に向けて統合的なアプローチをめざすSDGsの達成に向けて、私たちも役割の一端を担い行動していきます。

1.2030年にめざす社会像

 私たちは、2030年向けて、以下の社会の実現をめざします。

貧困や社会的排除がなく、人と人とのつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会

2.2030年ビジョン

 上記の社会を実現するため、私たちは以下のビジョンを掲げ活動を進めます。

  1. 多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます。
  2. 労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、すべての人のくらしを 生涯にわたってサポートします。
  3. 地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う地域共生社会をつくります。
  4. 労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、財政基盤を確立します。

Ⅴ.2030年ビジョンを実現するために

 今後とも労福協運動は、政策や制度の改善を求める社会運動と、労働者自主福祉運動を車の両輪として活動を進めます。具体的な取り組みにあたっては、私たちの生活の場である地域で、支え合い、助け合いを社会に根づかせていく活動を重視します。
 中央労福協は2030年ビジョンを実現するために、労働組合、労働者福祉事業団体、協同組合間、地方労福協との連携をはかりつつ、以下のような方向性でこれからの活動に取り組み、活動方針の中で具体化していきます。

1.多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます。

(1)安心できる社会保障制度やセーフティネットを強化します
 失業、病気、老後への不安を解消し、子育てや介護を社会で支えるため、社会保障の充実やセーフティネットの強化に取り組みます。
(2)貧困や社会的排除をなくし、格差を是正します
 様々な困難を抱えた人たちに寄り添った包括的な支援を行うとともに、貧困や多重債務のない社会にするための運動に取り組みます。また、税や社会保障を通じた所得再分配の強化、企業の内部留保の活用などを求め、富の集中や格差を是正し、公正に分かち合う社会をめざします。
(3)学びと住まいのセーフティネットをつくります
 私費負担に依存してきた教育と住まいを、社会で支える仕組みに転換します。このため、誰もが安心して学ぶ機会が保障され、いつでも学び直しができる社会を実現するための運動を継承・発展させるとともに、「住まいは人権」との観点から住宅セーフティネットの強化をめざします。
(4)労働運動と消費者運動をつなぎます
 労働者でもあり消費者でもある市民が共同で取り組める課題として、ディーセントワークや公正なワークルール、消費者被害の防止・救済やエシカル消費(人や社会、環境に配慮した倫理的な消費行動)、労働教育・消費者教育の促進などをめざし、労働運動と消費者運動をつなぎます。
(5)持続可能で、安心してくらせる社会をつくります
 これまでの自然災害を教訓に、防災・減災、復興支援、被災者の生活再建支援に取り組みます。また、様々な団体と連携し、地球温暖化対策や循環型社会づくり、食の安全、食糧、平和などの問題に取り組み、持続可能で、安心してくらせる社会をめざします。

2.労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、すべての人のくらしを生涯にわたってサポートします。

(1)協同組合の基盤を強化し、活動領域を広げます
 連帯や協同を社会の基盤に据え、市場経済では解決できない諸問題の解決に向けて、協同組合などの社会的事業、NPO、市民団体などが、いきいきと活動できる領域を広げていきます。そのための協同組合の社会的地位の向上に向けた総合的な政策と法制度の改善を、JCAとともに取り組みます。
(2)協同組合の社会的価値と力量を高めます
 JCAや各協同組合と連携し、認知度向上や協同組合間協同を促進し、よりよいくらし・仕事づくりに向けた協同組合の社会的役割の発揮につなげます。
(3)労働者福祉事業団体と労働組合との「ともに運動する」関係を強めます
 事業団体と労働組合との「ともに運動する主体」としての関係を強化し、労働者福祉事業を活用することで、働く人たちのくらしの安心・向上につなげます。
(4)誰ひとり取り残さず、共助の輪を広げます
 未組織労働者、不安定な雇用で働く仲間、失業者、障がい者、高齢者、外国人など、福祉が最も必要とされる人たちが共助の仕組みに参加できるよう、労働組合や協同組合、労働者福祉事業団体と連携して取り組みます。

3.地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う地域共生社会をつくります。

(1)ライフサポート活動のネットワークを広げ、地域の課題解決につなげます
 労福協加盟団体、行政、関係団体、専門家などとネットワークを広げ、地域住民の様々なくらしのニーズに対応し、困り事の解決をサポートします。様々なネットワークが連携する中で、それぞれの強みを活かした相談・支援体制をつくっていきます。また、居場所や生きがいづくり、未組織労働者や高齢者などに共助を拡大していくなど、勤労者・市民の拠りどころとしての機能を高めていきます。
(2)すべての人にとって働きやすくくらしやすい地域共生社会をつくります
 様々な困難を抱えた人たちを社会で包摂し、多様な条件で働くことができる就労の場づくりや、住まいや食、介護や子育てに関する支援を広げ、ともに生きる関係づくりを進めます。それは、すべての人にとって働きやすくくらしやすい職場・地域にしていくことにつながります。そしてその実現は、協同組合、労働組合をはじめ、行政、社会的企業、NPOなどの連携・協働によって可能になります。労福協もその一翼を担うとともに、こうした取り組みを通じて、協同組合や労働組合の社会的役割の発揮や、高齢者の社会参加の促進につなげていきます。
(3)福利厚生の格差を是正し、中小企業や非正規雇用で働く人たちに拡充します
 大企業や中小企業、雇用形態によって、福利厚生の格差は依然として大きいのが現状です。このため、中小企業勤労者福祉サービスセンターなどと連携し、こうした福祉格差を是正し、すべての働く人たちと家族へ福利厚生を拡充します。

4.労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、財政基盤を確立します。

(1)運動を継承する人材を育成します
 労働者福祉運動を継承していくために、新しい担い手を育てていく啓発・教育活動が極めて重要です。このため、組織内の人材育成をはじめ、学校教育における労働・金融・消費者教育なども含め、各団体・組織の人材・教材等の資源も相互に活用しつつ、共同の取り組みを広げていきます。
(2)労働者福祉運動への女性の参画を促進します
 中央労福協加盟団体には女性が多く働き活動していますが、女性役員がいる組織・団体は少ないのが実状です。まず、加盟団体の女性役職員や、様々な分野で活動する女性たちが組織の枠を超えて交流する場をつくり、ネットワークを広げます。また、2030年に中央労福協、地方労福協における女性役員の割合を3割とすることをめざします。
(3)財政基盤を確立します
 運動を持続可能なものとするための財政基盤の確立は極めて重要な課題です。地域における社会連帯的な基金の設立などの先進事例も共有化しながら、今後の財政基盤の確立に向けて中央・地方で議論を深め、実現をめざします。

労働者福祉の基礎 労働者福祉運動の今日的な意義と役割

 労働者福祉運動は、中央労福協加盟の事業団体、労働組合、地方労福協が取り組む福祉活動・事業の総体を指し、中央労福協はその総合的な推進と調整を担っています。このため、労福協の役割・機能やこれからの活動の方向性を考えるにあたっては、時代の変化も踏まえた労働者福祉運動の今日的な意義と、協同組合や労働者福祉事業、労働組合、地方労福協が果たすべき役割や課題を明らかにし、全体で共有しておくことが必要です。

1.協同組合や労働者福祉事業の今日的意義と役割

(1)協同組合と一般企業との違い
透明で血の通った温かいお金の循環 協同組合は、「一人は万人のために、万人は一人のために」を原点とする、助け合いの組織です。「みんなで出資し、利用し、運営に参加できる」のが協同組合ならではの特徴です。「みんなで参加する社会的な事業と運動」であり、組合員も事業を支える主体者なのです。
 利潤の最大化を目的とする企業と異なり、協同組合は非営利の事業であり、剰余金はすべて利用している組合員への還元金と事業を継続・発展させるための基金として積立てます。
また、くらしの向上を第一に考えることから、品質や安全性に徹底的にこだわり、組合員との信頼関係を大切にします。
 労金、こくみん共済coop <全労済>などの労働者福祉事業に結集することによって非営利の事業が拡大し、それにより、くらしが向上し、会員組織以外の地域や市民にまで福祉の幅を広げていくこともできるのです。
(2)協同組合へ期待される役割
  協同組合は、世界では組合員数約10億人、事業高約292兆円に、日本でも組合員数約6,500万人、事業高約16兆円の規模に達しています(2017年3月)。また、2012年の国際協同組合年以降、市場経済だけでは解決できない諸課題に取り組んでいることへの評価と期待が世界的に高まっています。とりわけ、国連が期待しているのは、貧困の根絶、雇用の創出、社会的包摂の3つの分野です。なぜなら、協同組合が富を公平に分配し、健全な経営で多くの人を雇用し、社会的に排除された人たちの社会参加を促進する役割を果たしているからです。
 2016年11月には「協同組合の思想と実践」がユネスコの無形文化遺産に登録されました。また、SDGsが掲げる理念や多くの課題は協同組合がもともと取り組んできたテーマであり、国連からもSDGsを達成するための重要な担い手のひとつとして位置づけられています。
 日本の協同組合も、こうした期待にこたえ、共助(メンバーシップ)を土台としつつも、その枠を超えて、地域づくりや社会性を持った公益的活動への取り組みが広がっています。こうした活動を通じて、地域で必要なことを住民自身、当事者が主体になって解決し、ともにつくっていく役割も期待されます。
 協同組合の資金を社会に役立てるように循環させていくことで、社会や地域が大きく変わる可能性もあります。組合員のお金に意思をもたせ、雇用や環境、社会問題を解決する仕組みとしてのお金の流れ(グッドマネー)をつくっていくことが期待されます。また、労金が社会的金融機能を強めることにより、NPOなどの民間の活動が活性化していくこともできます。
2018年4月、様々な分野の協同組合が結集し、JCA(日本協同組合連携機構)が発足しました。これを契機として、協同組合が連携を強め、さらに社会的な役割を発揮していくことが求められています。
(3)協同組合をめぐる課題
 一方で、日本の協同組合を取り巻く環境は厳しさを増しつつあり、これからの労働者福祉事業や運動では、以下のような課題に対応していくことが必要です。
第1に、協同組合の自主性や主体性を制限しようとする動きへの対応です。日本では農協改革など、「自治と自立」を原則とする協同組合に対して政府が不当に介入して営利化・株式会社化を促すなど、世界の潮流と逆行する動きがあります。また、アメリカの規制緩和要求などの国際的圧力による共済等への影響も懸念されます。こうした動向に警戒しつつ、協同組合がその特性を活かし発展できるよう政策を方向づけていかなければなりません。
第2に、日本の協同組合の法制度は管轄省別の縦割りとなっており、相互の連携が弱いという構造的な問題を抱えています。JCAの発足を契機に、協同組合がそれぞれの事業や活動に横串を通す分野横断的な連携を強め、総合的な政策や法整備の実現につなげていくことが課題となっています。
 第3に、2012年の国際協同組合年を契機として、協同組合の価値や社会的役割についての理解も徐々に進んでいますが、依然として認知度については労働組合員でも高くないのが現状です。JCAなどとも連携し、労働組合や地域活動などにおいて協同組合への理解を広げ、認知度向上に取り組んでいくことが必要です。
 第4に、事業と運動との関係性についてです。協同組合も、市場の中で激しい競合にさらされており、非営利事業とはいえ一定の収益がないと事業を継続し得ないのは言うまでもありません。同時に、運動理念である民主的運営を貫徹させなくてはなりません。事業(採算性)と運動(民主制)のバランスを両立させることは、協同組合に課せられた永遠の課題です。それが一般の企業とは異なる使命でもあり、そのことに誇りと覚悟を持って、これからも運動を進めていかなければなりません。

2.労働運動への期待と課題

 労働人口の減少、情報技術革新の進展とグローバル化のさらなる進展は、産業構造や雇用・労働のあり方、働き方に大きな影響を及ぼすことが予測されています。また、多様な雇用形態や、請負など雇用関係によらない働き方が拡大しており、そうした人たちがディーセントに働くことのできるワークルールづくりや、他の業種・職種への移動を円滑にする職業訓練の充実などが労働運動に期待されています。
 ナショナルセンターである連合は、結成30周年を機に連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会~まもる・つなぐ・創り出す~」を策定しました。特に「つなぐ」では、労働組合の運動として、地域づくりの一翼を担うため結節点となりネットワークを広げ地域・ステークホルダーをつなぐとしています。労働組合運動として、地域における様々な団体・組織との連携促進、ネットワークの拡大が期待されます。
 労働組合が有している組織力は要求を実現する大きな力です。奨学金制度改善運動における署名活動やアンケート調査への取り組みに現れています。そして、組織力の源泉は組織率です。労働組合の組織率は2009年の18.5%から17.0%(2018年)に低下しています。労働組合の組織力や労働運動が社会的影響力を高めるためには、組織率の低下に歯止めをかけることが必要です。経済のグローバル化は企業のみならず労働者一人ひとりも競争原理に組み込み、分断・孤立を余儀なくされています。働く仲間がお互いに支え合い、助け合うために労働組合はより必要になっています。
 また、1950年代から労働者自ら労働運動として取り組んだ労金の創設や共済事業の労働者福祉事業は今や拡大・発展し、労働者の生活向上、くらしの安心を支えています。今後も労働運動と労働者福祉運動は一体のものとして取り組んでいくことが重要です。

3.労働運動と労働者福祉事業との関係性  ~「業者とお客さま」の関係から「ともに運動する主体」に

 労金や共済事業が設立された当時は、労働組合役員と事業団体の職員が一体となって組合員をオルグし、普及活動を行い、事業を発展させてきました。そして、国や自治体に要求するだけでなく、必要な事業は自らでつくりだし、そのための法律や制度の改善にも取り組んできました。そうした運動と実践の積み重ねの中から、労働運動と労働者福祉事業は「ともに運動する」関係を築いてきたのです。
 しかし、近年ではこの原点が薄れ、2020年ビジョンでは、事業団体と労働組合との関係が「業者とお客さま」の関係に変容したのではないかと指摘し、「ともに運動する主体」としての関係づくりを提起しました。この間の取り組みにより、多くの労働組合で労働者福祉運動の推進が方針化されるなどの成果を挙げています。しかし、依然として事業団体を同業者のひとつと見なす労働組合役員もいます。加えて、組合員にまで浸透させるには、さらなる取り組みが必要です。また、事業団体の側も、労働運動との関係性や事業と運動の両立など、労働者福祉運動に関する職員教育に一層力を入れることが求められます。
 運動や事業を担う人は常に入れ替わっていきますし、協同組合をめぐる情勢も変わっていきますので、創業の初心や歴史はもとより、今日的な事業の意義の共有を繰り返し行っていかなくてはなりません。そして、勤労者や市民のニーズを汲み取り、それに応じて労働者福祉事業の商品やサービスをどのように提供していくかについても不断に議論を交わす中で、「ともに運動する主体」としての関係を再構築し強めていくことが必要です。
 また、共助の輪を広げることも、労働組合と労働者福祉団体がともに取り組むべき課題です。この間の経験では、リーマンショック後に連合を中心に労働者福祉団体も含めて総力で取り組んだ「雇用と就労・自立支援カンパ活動」により、働きたくても働けない仲間への連帯・支援活動が全国に広がるとともに、地方労福協の生活困窮者自立支援事業を下支えし国の制度創設へとつながりました。また、地域においては、労働組合と労働者福祉団体が結束し、みんなでお金を出し合って基金を設立し、奨学資金の援助や一人親家庭の支援など、地域での社会的な活動や共助の拡大に役立てている事例もあります。こうした取り組みは、組合員や地域の人たちにもその意義が見えやすく、連帯感を高め共感を呼ぶ運動につながるものであり、さらに広げていくことが期待されます。

4.地域における自主福祉活動の課題

 私たちの活動の拠点は、生活の場である地域です。このため、地域における自主福祉活動の強化は、労働者福祉運動の大きな柱のひとつです。各都道府県や地域に、地方労福協や地域・地区労福協があり、それぞれの地域の労働運動や労働者福祉事業団体、協同組合などとネットワークを組んで、働く人たちの福祉の向上に取り組んでいます。
 地方での労福協の取り組みは、1990年代頃から中小企業勤労者福祉の向上や介護サービス、NPOやボランティア活動との連携が始まり、2000年代に入ってからは、就労支援、生活困窮者自立支援、子育て支援、退職者の生きがい・健康づくり、フードバンク活動などへと、さらに幅を広げています。そして、2005年以降はライフサポート活動を通じて、地域に根ざした活動を展開してきました。
 貧困や孤立が進み社会が分断するなかで、地域のコミュニティ機能も崩れつつあり、その再生が必要です。しかし、それは伝統的な地縁・血縁による閉鎖的な社会に戻すということではありません。私たちが求める地域社会は、企業や家族の枠を超え、労福協、労働組合や協同組合などが結節点となって、“志”や“共通のニーズ”を縁として、助け合い・支え合いの基盤を創りだしていくことです。
 政府もこの間、これまでの縦割りから脱却し、寄り添い型で包括的な支援として生活困窮者自立支援制度を創設し、「地域共生社会」を基軸に据えた政策展開を模索しています。こうした動きは、私たちが地域で実践しめざしてきたものが反映した面と、他方において財政当局の支出削減圧力という2つのベクトルが作用しています。これからの10年においても、そのせめぎ合いが焦点となります。どのような「地域共生社会」ができるかは、私たちがそこにどう関わり取り組んでいくかにかかっています。「地域共生」の名のもとに、本来は行政が果たすべき責任までもが住民の助け合い・支え合いに「丸ごと」押しつけられたり、協同組合やNPOなどが安上がりの委託先と扱われるようでは、地域の問題はより悪化しかねません。私たちがめざすのは、行政が共助や共生を支えるための公的な責任を果たした上で、協同組合などの社会的事業やNPOが能動的な主体者となり、行政の各種事業のツールを組み合わせることにより「地域共生社会」づくりを進めることです。
 また、JCAの発足に伴い、協同組合陣営全体とも各地域において様々なテーマで連携を深め、関係性を強めていくことが必要です。

「労働者福祉」に関する用語の使用法について

○「労働者福祉」と「労働者自主福祉」は同義
 本稿2頁で触れたように、「労働者福祉」の概念には、「労働者のための福祉」(対象)と「労働者による福祉」(主体)の両面が含まれています。したがって、「労働者福祉」と「労働者自主福祉」は同義であり、本稿では、通常は「労働者福祉」を、労働者が主体的に行っていることを強調する文脈では「労働者自主福祉」を使っています。
○ 協同組合
 ICA(国際協同組合同盟)の定義によると、協同組合は「共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織」を指します。
 日本の協同組合には以下のようなものがあります。

労働者福祉に関わる協同組合 (その全国組織が中央労福協に加盟) ろうきん、こくみん共済coop、消費生活協同組合、住宅生活協同組合、労働者協同組合(ワーカーズコープ)、 再共済生活協同組合、医療福祉生活協同組合
それ以外の協同組合 農協、漁協、森林組合、信用金庫、信用協同組合、事業協同組合(中小企業の協同組合)など
○ 労働者福祉事業団体(労働者自主福祉事業団体と同義)
 短縮して「福祉事業団体」や「事業団体」と呼ぶこともあります。上記「労働者福祉に関わる協同組合」の各組織のほか、労働者福祉会館、勤労者旅行会、労働者信用基金、中小企業勤労者福祉サービスセンターなどの団体が含まれます。また、本稿では、「労働者福祉事業団体」に「労福協」を加えて「労働者福祉団体」と呼んでいます。
○ 社会的事業
 本稿では、協同組合や労働者福祉事業のほか、社会的企業、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネスなどを含めて「社会的事業」と呼んでいます。

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