「高等教育無償化」関連法案である「大学等における修学の支援に関する法律案」の審議が衆議院で始まった。3月20日には、文部科学委員会で参考人質疑があり、中央労福協の花井圭子事務局長をはじめ3名が意見陳述を行った。花井事務局長は、アンケートから見えてきた問題や国民の声をもとに法案等の問題点を指摘し、支援対象を中間層に広げていく道筋を明らかにするよう求めた。
授業料引き下げ、奨学金返済者の負担軽減を!
アンケート調査の声を国会に紹介
同法案は3月14日の衆議院本会議で趣旨説明と代表質問が行われ、附託された文部科学委員会において20日に趣旨説明と参考人質疑が行われた。
参考人質疑において、花井事務局長は、2020年度から給付型奨学金や授業料減免が拡充されることは前進と評価しつつ、対象者が低所得者に限定されており「無償化」とは言えないこと、進学する大学等によっては支援が受けられないことなどの問題点を指摘。また、中央労福協が実施したアンケート調査の結果を紹介しながら、無償化の対象の拡大や授業料引き下げを求める声が強いこと、奨学金返済者の負担・不安感や結婚・出産・子育てなどにも影響を及ぼしている現状を訴えた。そして、「国会審議を通じて本法案の懸念が払拭され、学費の引き下げや中間層を含めた支援策の拡充、奨学金返済者の負担軽減への展望が見えるような方向性を、国会の意思として明らかにしていただきたい」と要望し、意見陳述を締めくくった。(発言要旨は裏面参照)
花井事務局長の他、三島良直氏(東京工業大学名誉教授・前学長)、小林雅之氏(東京大学大学総合教育研究センター教授)が参考人としての意見陳述を行い、その後、与野党の国会議員からの質疑を受けた。それぞれの立場から様々な問題点や課題が指摘されたが、高等教育の漸進的無償化に向けて今後の対象者の拡大が課題であることでは参考人の意見は一致した。その上で、花井事務局長は「少子化対策というのであれば、消費税増収による財源は、中間層への支援、有利子奨学金の無利子化や返済者の負担軽減にも活用すべきだ」と訴えた。
花井事務局長意見陳述(要旨)
中央労福協で給付型奨学金制度の創設、奨学金制度の改善、教育費負担の軽減に取り組んできた立場から意見を述べる。また、昨年実施した「奨学金や教育費負担についてのアンケート調査」(16,588名から回答)から参考になる点も紹介したい。
昨年末の政府方針で、2020年度より低所得者層に対して、給付型奨学金を対象、金額ともに拡充し、大学等の授業料減免についても拡充すること、また、在学中の家計急変時への支援が盛り込まれたことは前進であり、評価している。
ただし、法案や制度の詳細については、以下のように、問題点や明らかにすべき点、高等教育の負担を軽減するために欠かせない課題で触れられていない点もある。
- 対象を「真に支援が必要な低所得世帯の者」に限定しており、これでは「高等教育無償化」とは言えない。将来的に支援の対象を中間層に広げていく道筋を明らかにしてほしい。また、新たな制度創設で、現行の大学院生や中間層に対する授業料減免の打ち切りや後退があってはならない。
- 大学等の機関要件により、進学する大学等によっては授業料減免や給付型奨学金の支援が受けられない。学生の選択肢を狭めたり、大学の自治や学問の自由を侵害しないよう、その必要性も含めて議論し、慎重な運用をお願いしたい。
- 大学等で学業成績が不良な場合(相対評価で下位1/4など)の支援の打ち切りや既支給額の返還は、進学の躊躇や学生の選択肢を狭めることにつながりかねない。
- アンケートの結果は「学費の引き下げを!」というのが最多の声である。高すぎる学費を引き下げ、中間層を含めた全体的な学費軽減の方向性を示してほしい。
- 奨学金返済の負担・不安感は重く、結婚、出産、子育てなどにも大きな影響を及ぼしている。これを放置すれば、少子化をより加速することになりかねない。
返済困難者に対する喫緊の対策として、返還猶予期間の延長、延滞金賦課率の引き下げ、保証のあり方についての見直しを早急に行うことが必要だ。 - 低所得世帯の高等教育進学率が8割まで上がる想定で支援対象者や財源が試算されているが、それまでの間、消費税増収分との差額はどう使われるのか。
- 2017年の日本学生支援機構法改正時の附帯決議の進捗状況を国会として点検し、一歩でも前進させ、施行4年後の見直し以前であっても必要な改善は行うべきだ。
国会審議を通じて、本法案の懸念が払拭され、学費の引き下げや中間層を含めた支援策の拡充、奨学金返済者の負担軽減への展望が見えるような方向性を、国会の意思として明らかにしていただきたい。