労働者福祉中央協議会
会長 神津 里季生
- 厚生労働省は、5年に1度の生活保護基準の見直しにあたり、来年度より生活扶助基準や母子加算を大幅に引き下げる方針を示した。当初の最大13.7%もの削減案から、批判を受けて最大5%にまで削減幅を縮小したものの、依然として大きな削減である。
生活保護基準は、2013~15年の生活扶助基準の大幅引き下げ(平均6.5%、最大10%)、2015年からの住宅扶助基準・冬季加算の削減と、立て続けに引下げられており、生活の切り詰めも限界に達している。生活保護基準は憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する基準であり、これ以上の引き下げは、到底容認できない。 - 引下げの根拠としては、所得階層の下位10%の消費水準に合わせるとされている。しかし、日本では、生活保護基準未満で暮らしている世帯のうち、実際には2割程度しか生活保護を利用していないと言われている。このような理屈で引き下げを許せば、最低生活ラインを際限なく引き下げていく「貧困のスパイラル」に陥り、社会の底割れを招きかねない。まずは最低賃金の引き上げをはじめ、生活保護基準以下で暮らしている生活困窮者層の底上げをはかるべきである。
また、前回の引下げ時には、「生活扶助相当CPI」という厚労省独自の統計手法を用いて物価下落を過大に評価したが、物価上昇局面の今回はそれを全く考慮しないなど恣意的で、まさに「引き下げありき」の数字合わせと言わざるを得ない。 - 今回の引き下げでは、子どものいる世帯や、高齢世帯が狙い撃ちされている。母子加算や児童養育加算の引下げについては、子どもの貧困対策や教育無償化の政策とも逆行する。生活保護世帯の子どもの大学進学について、住宅扶助費の減額取りやめや入学時の一時金支給が検討されているが、子どものいる世帯の保護費を大幅に減額するのでは、大学進学にたどり着く前に進学を断念しかねない。また、高齢世帯の生活扶助削減は、高齢者の活動や交流の機会を抑制し、社会的孤立を招くことが懸念される。
- 生活保護基準は、単に生活保護利用者のみの問題ではない。住民税非課税基準をはじめ、最低賃金、医療・福祉・教育・税制など様々な施策の適用基準にも連動しており、国民生活全般にも大きな影響を与える。実際に、前回の生活保護基準引下げにより、就学援助の基準が下がる自治体が続出している。他施策や国民生活への影響について充分な検証を行なわないまま、生活保護基準をさらに引き下げるべきではない。
- 検証にあたった生活保護基準部会の報告書においても、一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準を捉える検証方法には一定の限界があることを認め、「絶対的な水準を割ってしまう懸念がある」と指摘している。また、前回の引下げに伴う家計への影響についても「評価するまでには至らなかった」とされている。中央労福協は、厚生労働省が基準検討にあたって当事者の声を聞くとともに、誰もが納得できる「新たな基準の検証方法」が確立するまでは、現行の基準を引き下げないよう、強く求める。
以上