中央労福協は2月20日、
2018年2月20日
厚生労働大臣
加藤 勝信 様
労働者福祉中央協議会
会 長 神津 里季生
生活困窮者自立支援法等改正、生活保護基準引下げに関する要請
日頃のご活躍に敬意を表しますとともに、中央労福協の活動へのご理解・ご協力に心より感謝申し上げます。
さて、生活困窮者自立支援法等改正法案が国会に提出され、生活保護基準の見直しについても2018年度予算案で審議が行われております。
労働者福祉中央協議会(略称:中央労福協)は、生活困窮者自立支援制度の創設過程のモデル事業(パーソナル・サポート事業)の段階から、いくつかの地方労福協が実践を積み重ね、現在は7つの地方労福協で事業を受託しています。また、生活・就労支援に取り組む地方労福協、労働者福祉事業団体間の情報交換、先進事例の共有化等にも努めています。全国の地方労福協においても、自治体への要請・働きかけ等を通じて制度の定着、発展に取り組んできました。
また、生活の底上げや貧困の連鎖の解消をめざし、生活保護制度の改善や生活保護基準の引下げ撤回を求める取り組み、奨学金制度改善などの取り組みを進めてきたところです。
こうした立場から、生活困窮者自立支援法等の改正法案や生活保護基準の引下げ案に対して、以下の通り要望いたします。
記
1.生活困窮者自立支援制度の改善・拡充について
① 生活困窮者自立支援法の改正案は、生活困窮者自立支援制度の基本理念や定義の明確化をはかり、生活困窮者に対する包括的な支援体制の強化をはかるなど、大きな前進となるものあり、今国会において速やかな成立をはかること。
② 同法案の国会審議を通じて、誰もが社会的に孤立することなく自立できる支え合いの社会・地域づくりにつなげていけるよう、今後の方向性について以下を明確化すること。
- a) 法案に明記された基本理念に沿って、生活困窮者の尊厳の保持をはかりつつ、社会的孤立も含め個々の状況に応じた包括的・早期的な支援や、関係機関・民間団体との緊密な連携による地域づくりを着実に進めること。
- b) 就労準備支援事業、家計改善支援事業については、改正法案で努力義務化されたことに伴い、集中的な取り組み期間を設定し、全ての自治体での完全実施を早期に達成すること。また、一時生活支援事業、子どもの学習支援・生活支援事業も含め、各事業の実施率を高めつつ、次期改定において必須化や補助率の引き上げをめざすこと。
- c) 都道府県が改正法案に明記された役割(市等に対する研修事業や事業実施体制の支援、ネットワークづくり等)を発揮できるよう、国としても最大限の支援を行うこと。
③ 今後の運用や制度の改善にあたって、以下の点に留意すること。
- a) 生活困窮者自立支援制度の安定的な運営と発展のため、生活保護費を削減することなく、必要な予算と財源を確保すること。
- b) 制度を担う相談員や支援員などの育成・確保、雇用の安定、処遇の改善をはかること。
- c) 事業の委託契約にあたっては、事業の安定的運営やサービスの質の向上、利用者との信頼関係にたった継続的な支援、人材の確保やノウハウの継承をはかる観点から、価格競争や単年度実績で評価するのではなく、一定期間事業を委託し支援の質や実績を総合的に判断するよう、自治体関係者に周知徹底すること。
- d) 支援をより効果的に行うため、就労支援期間中の生活支援給付や交通費等の実費支給、学習支援や一時生活支援における食費等の経費への補助、住宅確保給付金の拡充をはかること。
- e) 地域で支える受け皿となる企業・団体へのインセンティブ(優先発注、助成等)を確保すること。このため、2018年度予算案で計上された就労準備支援事業へのインセンティブの実効化・拡充をはかるとともに、改正法案で努力義務化された「就労訓練の認定事業者への受注機会の増大」の具体化・促進をはかること。
2.生活保護制度の見直しについて
① 生活保護法の改正案については、生活保護受給者に対して後発医薬品の使用を原則化する規程を修正し、医療の平等の観点から、一般の医療被保険者と同様の扱いとすること。
② 今次法改正に伴う無料低額宿泊所に対する規制強化や良質な日常生活支援を提供する仕組みの創設を具体化するにあたっては、支援関係者の意見を充分に聴取し制度設計に反映すること。
③ 生活保護世帯の子どもの大学等への進学支援については、貧困の連鎖を解消し教育の機会均等を確保する観点から、今次改正による進学準備のための一時金の給付に加え、「世帯分離」の取り扱いの見直しを含め、引き続き検討を行うこと。
④ 生活保護受給者の医療機関受診に際しての窓口負担については、最低生活費を割り込む恐れや受診抑制が懸念されることから、償還払いの試行・導入は行わないこと。
⑤ 社会保障の脆弱さが生活保護制度に過度に負荷をかけている現状を踏まえ、生存権保障の観点から生活保護制度全般のあり方の見直しを行うため、 当事者も参画する検討の場を厚生労働省内に設置すること。
3.生活保護基準の引き下げについて
① 生活保護基準のこれ以上の引き下げは、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を割り込む恐れがあり、生活保護利用者のみならず国民生活全般にも影響を及ぼすため、今回の引き下げ案を撤回すること。
② 児童養育加算(3歳未満)や母子加算の減額は、子どもの貧困対策や貧困の連鎖防止の政策に逆行することから、行わないこと。
③ 生活扶助基準の検証方法については、生活保護基準部会の指摘を重く受けとめ、低所得世帯との均衡方式に変わる新たな検証方法の開発を早急に行うこと。
④ 前回の引下げに伴う生活保護利用者の家計の実態や国民生活への影響について、実態把握・調査を行った上で充分な検証を行うこと。
⑤ 生活保護基準の決定のあり方について、厚生労働大臣の告示のみで決定できる現行の仕組みを見直し、生活保護基準部会への諮問、答申の尊重義務や当事者の参画をはかるなどの改善を行うこと。
以 上